・・・しかしそこをくぐることによって、もしそうでなかったら決して生涯見ることのなかったはずの珍しく新しい国を遍歴する第一歩を踏み出すことができるのである。もっともこのようなことは何も連句に限らず他の百般の事がらに通有ないわゆる「転機」の妙用に過ぎ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・し出されしものなるが、父田中甚左衛門御旨に忤い、江戸御邸より逐電したる時、御近習を勤めいたる伝兵衛に、父を尋ね出して参れ、もし尋ね出さずして帰り候わば、父の代りに処刑いたすべしと仰せられ、伝兵衛諸国を遍歴せしに廻り合わざる趣にて罷り帰り候。・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・しかしもう日本全国をあらかた遍歴して見たが、敵はなかなか見附からない。この按排では我々が本意を遂げるのは、いつの事か分らない。事によったらこのまま恨を呑んで道路にのたれ死をするかも知れない。お前はこれまで詞で述べられぬ程の親切を尽してくれた・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・それからバクニンは、莫斯科と彼得堡との中間にある Prjamuchino で、貴家の家に生れた人で、砲兵の士官になったが、生れ附き乱を好むという質なので、間もなく軍籍を脱して、欧羅巴中を遍歴して、到る処に騒動を起させたものだ。本国でシベリア・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫