・・・ 雁金という人物は、非行動的で、自意識の過剰になやむインテリゲンチア山下久内に対照するものとして、単純な、変りものの発明狂、行動者として扱われているばかりでなく、作者は、はじめから、久内が「同情し得る」程度の条件しか持たぬ人物としてこし・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・には、まだまだどっさりの過剰物がついています。文章の肌もねっとりとして、寝汗のようで、心持よくありません。しかし、作者は、どうもそれを知っているらしいんです。その気味わるいような、ブリューゲルふうの筆致が、作品の世界の、いまだ解決されない憂・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・その勤労して生きる人民の人口比率を見れば三百万人の女子人口が過剰している。今更繰返す必要の無い性生活全面の困難は大きい。人間らしくまともに生きようとする私たちの足もとには、何とひどい凸凹があるだろう。たまに美しい空の色をうつしている場所があ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・けれども溢れ出る生命の過剰を現すことが出来ない。」バルザックが、以上のような規準に従って現実ととり組み、自身の文体をも構造しようと努力した態度の内には、今日においても学ぶべき創作上の鋭い暗示、真の芸術的能才者の示唆を含んでいる。それだのに、・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・庶民性そのものへの過剰な肯定があることから、散文精神なるものが従来の作家的実践のままでは、とかく無批判的な日暮し描写、或る意味での追随的瑣末描写の中に技術を練磨される傾きであった。大衆というものの内部構成と、そこに潜んでいる可能性というもの・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・力の過剰のために、無細工な若者ゴーリキイが疲労で鈍くなるまでの労働であった。 この時期に、ゴーリキイの心持にとって代えるもののなかった祖母が死んだ。葬式がすんで七週間後に従兄から手紙が来て、それを知らせた。句読点のない短い手紙の中には、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・義理人情が芸術の要因の重きを占めるようになった徳川権力確立以後の日本人の芸術は、感傷と悲壮との過剰に苦しめられている。しかも、これらの芸術的要素は、万葉時代にはこのような形では日本人の生活感情のうちに現われていなかったものである。まして、い・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・先生はむしろ情熱と感情の過剰に苦しむ人である。相手の心の動きを感じ過ぎるために苦しむ人である。愛において絶対の融合を欲しながら、それを不可能にする種々な心の影に対してあまりに眼の届き過ぎる人である。そのため先生の平生にはなるべく感動を超越し・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫