・・・そういう人はなんでもわかっているが、ただ「人間は過誤の動物である」という事実だけを忘却しているのである。一方ではまた、大小方円の見さかいもつかないほどに頭が悪いおかげで大胆な実験をし大胆な理論を公にしその結果として百の間違いの内に一つ二つの・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・「然る処続冬彦集六八頁第二行に、『速度の速い云々』と有之り之は素人なら知らぬ事物理学者として云ふべからざる過誤と存じ候、次の版に於ては必ず御訂正あり度し 失礼を顧みず申上ぐる次第に御座候 敬具」 なるほど、物理学では速度の大・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・多くの失敗と過誤の苦い経験を重ねなければなるまいと思われる。現にそうした経験を今日われわれは至るところに味わいつつあるのである。 そうはいうものの、日本人はやはり日本人であり日本の自然はほとんど昔のままの日本の自然である。科学の力をもっ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・婢僕の過誤失策を叱るは、叱らるゝ者より叱る者こそ見苦しけれ。主人の慎しむ可き所なり。一 婦人は家を治めて内の経済を預り、云わば出るを為すのみにして入るを知らざる者の如くなれども、左りとては甚だ不安心なり。夫とて万歳の身に非ず、老少より言・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・家の内には情を重んじて家族相互いに優しきを貴ぶのみにして、時として過誤失策もあり、または礼を欠くことあるもこれを咎めずといえども、戸外にあっては過誤も容易に許されず、まして無礼の如きは、他の栄誉を害するの不徳として、世間の譏りを免るべからず・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・軍閥の巨頭袁を、立憲共和の新しい中華民国の大総統に推さざるを得なかったことが、最大の過誤であったという意味のことを孫文が述べているそうだ。中国だけにある悲劇だろうか。日本の一九四五年八月十五日以後に、東久邇の内閣があった、あり得たということ・・・ 宮本百合子 「兄と弟」
・・・藤村の生きかたでは、逸脱は或る意味で彼の人生にとって過誤であった。けれども秋声の場合には、過誤ではなく、彼のように生きることに即して生きた人が、ああもし、こうもして生きてみた、その一つの姿という関係にある。自己放棄の道を通ってさえも秋声は常・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・この事は独逸支部のような威力ある支部の仕事においてすら、多くの過誤から免れしめることが出来た。」 これらの成功的な経験を列挙すると共にベーラ・イレッシは、それにも増して国際局の仕事の上に示された欠陥を鋭く批判した。 ――「欠陥の基本・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・また過誤のあった時、分疏をするために予め地をなして置くのでもない。これは私の性質と境遇とから生じた事実である。あるいはそれではギョオテに済むまいと誚められるかも知れない。しかしこれまで舞台に上されるファウストを日本語で書いた人もなく、またそ・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫