・・・またある人はどこかで道義心に満足を与えない作物は、作りたくない読みたくないと断言します。また他の人は意思の発現に伴う荘厳の情緒を得なければ、文芸上のあるものを味うた気がしないとまで主張するかも知れない。これらの時代もこれらの人々もことごとく・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ただ金を所有している人が、相当の徳義心をもって、それを道義上害のないように使いこなすよりほかに、人心の腐敗を防ぐ道はなくなってしまうのです。それで私は金力には必ず責任がついて廻らなければならないといいたくなります。自分は今これだけの富の所有・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 今日の世界的道義はキリスト教的なる博愛主義でもなく、又支那古代の所謂王道という如きものでもない。各国家民族が自己を越えて一つの世界的世界を形成すると云うことでなければならない、世界的世界の建築者となると云うことでなければならない。・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ 民主的な検事局というならば、あらゆる場合、基本的な人権の劬り、事件関係に対する社会の現実に立ったリアルな科学的洞察、真の道義的責任のありどころを明確にすることがのぞまれて当然である。一つの行為に対する法的処罰が、道義上の判断と評価とに・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・仮に二つのものを一つに結び合わして考えたい心持のひとは、二つに分けられたままにただそれを並べてくっつけて云って、結果としては科学知識プラス宗教或は科学知識にプラス道義とかいう形に止った。 人間精神の溌剌さは、現実のうちではそういう不器用・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・ 家庭というものについても、現代は観念の上で、或は道義の論として大変大切にいわれながら、家庭の現実では菓子一つの実例にしろ甚だ不如意におかれている。家庭における明日の価値の創りてとしての若い男女は結婚や家庭生活に対して前に向ったそれぞれ・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・政治が、わたしたちの社会的な良心と道義、そして良識の判断に土台をおいた動きである以上、明日に育つきょうの小さいものを正しく評価するということは、全く当然なことではないだろうか。政治について婦人のもたなければならない自覚をもてと云われるなら、・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・関東軍の威勢は日本の運命を左右し一人一人の首ねっこを押えていただけに、この歴史的事実にたいして、一般の人々の抱いている人間的道義的侮蔑は深く鋭いものである。日本の武士道とやまとだましいのはりこの面のうらの、醜さ、卑劣さとして、世界的に唾棄さ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・と打算は国際的であって、ファシズムの粉砕、世界の永続的な平和確立のための努力という、世界憲章のたてまえやポツダム宣言の履行と矛盾しながら、なおかつ資本は資本と結びつき得る本質のものであり、その利害には道義をつきのけたつよい共通性が生きている・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・というなら同じ卑俗さにしろわかりもするが、その現実はふせて、炭の空俵一俵でどれだけ米を炊くことが出来るかというようなところから、物の不足は感謝のみなもとという風な、道義化された説がなされていることは、二重の恥辱であると思った。 科学につ・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
出典:青空文庫