・・・……勝手な極道とか、遊蕩とかで行留りになった男の、名は体のいい心中だが、死んで行く道連れにされて堪るものではない。――その上、一人身ではないそうだ。――ここへ来る途中で俄盲目の爺さんに逢って、おなじような目の悪い父親があると言って泣いたじゃ・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・孔雀が豚を道連れにするエソップにでもありそうな図が憶出された。「あの奥さんがYと?」と私は何度も何度も一つ事を繰返して「そうだよ、ホントウだよ」とU氏に何度もいわれても自分の耳を疑わずにはいられなかった。六 駿馬痴漢を乗・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・の時代がかった文章を借りていうと、 ――さて、お千鶴を道連れに夜逃げをきめこんだ丹造は、流れ流れて故国の月をあとに見ながら、朝鮮の釜山に着いた。 馴れぬ風土の寒風はひとしおさすらいの身に沁み渡り、うたた脾肉の歎に耐えないのであっ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・汽車の旅って奴は、誰とでもいい、道連れはないよりあった方がいいもんですなア。どんないやな奴でも、道連れがいないよりあった方がいい」「あらッ、じゃ、私はそのいやな奴ですの?」「いや、そんなわけでは……。いや、断じて……」「べつに構・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・「人間は、一緒に旅行をすると、その旅の道連れの本性がよくわかる。」 旅は、徒然の姿に似て居ながら、人間の決戦場かも知れない。 この巻の井伏さんの、ゆるやかな旅行見聞記みたいな作品をお読みになりながら、以上の私の注進も、読者はその・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・彼女は、幸福に優しく抱擁される代りに、恐ろしく冷やかに刺々しい不調和と面接し、永い永い道連れとならなければならなかったのである。 以前より、自分の正しいと信じるところに勇ましくなった彼女は、あなたはどう思いますという問に対して、正直に、・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫