・・・の子として神の前に立つ事である、而して此事たる現世に於て行さるる事に非ずしてキリストが再び現われ給う時に来世に於て成る事であるは言わずして明かである、平和を愛し、輿論に反して之を唱道するの報賞は斯くも遠大無窮である。 義き事のために責め・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・と熊本君は小声で呟き、「佐伯君には、そんな遠大な思いやりがあって、ビイルのことを言い出したというわけですね。なるほど。」としきりに首肯いて腕組みした。「そんな、ばかな思いやりって、あるものか。」佐伯は少し笑って、「僕は、ただ、その、ほら・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・変らず、身辺の良友の言を聴き、君の遠大の浪漫を、見事に満開なさるよう御努力下さい。 太宰治 「砂子屋」
・・・とにかく日本などでは、まだなかなかそういう遠大な考えで学者の飼い殺しをする会社はそう多数にはあるまいと思われる。あるいはそこまでに学者の腕前に対する信用が高められないためかもしれない。そうだとすればその責任がどっちにどれだけあるか、それもよ・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・学校の教は人の心事を高尚遠大にして事物の比較をなし、事変の原因と結果とを求めしむるものなれば、一聞一見も人の心事を動かさざるはなし。 地理書を見れば、中津の外に日本あり、日本の外に西洋諸国あるを知るべし。なお進て、天文地質の論を聞けば、・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・本の圧力に抗しつつ自身とその芸術を新しくし、なおさらに新しい作家と文学とをもりたててゆこうと欲するとき、自分たちの文学活動の自立性を、民主の立場にたって、経済的に政治的に守る力さえもたないで、どうして遠大な希望にふさわしい実力をもちえよう。・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・私たちが衣服についてもつ希望や要求はこんなに遠大な本質をもつものであることを、私たちは知っていただろうか。 政治というと、私たちの生活に遠いことのようだけれども、こうして、衣服一つとして追求してもやはり結局は社会的な意味をもっている。人・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・の真意は、勝利者が上から敗北者にあびせかけた笑いであるというよりは、現実社会の腐敗や停滞、偽瞞を裏まで見とおしている社会生活への鋭い洞察者が、その明るくてかげのない実践的な生活態度と遠大な見とおしに立って、周囲の虚偽卑劣を描きつつ、おのずか・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・世界労働組合連合の遠大な目的と献身的な努力はここに向けられている。 一九四五年に組織された国際婦人民主連盟に世界の四十四ヵ国の婦人八千百万人が結集しているのは何のためだろう。ここにこそ、死をとおし涙をとおしての女性の決意がある。二度の戦・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・ 今日の辛酸にやつれている母たる妻たちは、こういうものごとの考えかたはあまり遠大で、理想倒れだと思うかもしれない。それよりも、目前の一枚の冬着を、とはげしく求める感情もあるであろう。しかし、私たちは、よくよく思いひそめなければならないと・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
出典:青空文庫