・・・まえから、そのために崖のうえのこの草原を、とくに選定したのである。眠った。ずるずる滑っているのをかすかに意識した。 寒い。眼をあいた。まっくらだった。月かげがこぼれ落ちて、ここは?――はっと気附いた。 おれは生き残った。 のどへ・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・宮廷に於ける諸勢力に対し、過不足ないよう、ことさらに当らずさわらずの人物が選定せられたのである。クロオジヤスは、申し分なき好人物にして、その条件に適っている如く見えた。ロオマ一ばんの貝殻蒐集家として知られていた。黒薔薇栽培にも一家言を持って・・・ 太宰治 「古典風」
・・・それには撮影さるべき対象選定はもちろんそれがいかなる条件においていかに撮影さるべきかが具体的に精細に設計規定されなければならない。それができて後に関係部員のそれぞれの部署が決定されなければならない。一方では精密な予算も組まれなければならない・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・それからもう一つのおもしろみの原因は登場するキャストの選定によって現わされた人間の定型の真実さにある。たとえば友だちの名をかたってパリへ出かけるいたずら者が、自分の引き立て役に純ドイツ型の椋鳥を連れて行く、その椋鳥のタイプとか、パリ遊覧自動・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・郷里の父に頼んで良種を選定し、数本の苗を東京へ送ってもらった。これがさらに佐野博士の手で伊東に送られ移植された。そしてこの苗の生長を楽しみにしておられた博士は不幸にして夭折されたのである。亡くなられる少し前に、たしかこれらの楊梅が始めて四つ・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・墓地の選定をなさんとする人には山腹の崖崩れは問題となるべし。 世人の天気予報に対する誤解と不平は畢竟この点に係る。二十万分の一の地図を手にして道路の小凹凸を索め、物体の温度を知りてその分子各箇の運動を知らんとすると同様なる誤解に起因す。・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・しかし後にはそうではなくて先任者が順々に後任者を推薦し選定するようになった。従って自然に人員の個性がただ一色に近づいて来るという傾向が生じたのではないかという気がする。どちらがいいか悪いかは別問題であるが、昔の人選法も考えようによってはかえ・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・あらかじめ気象学者の意見を徴すればよいのに、工学者や軍人だけで土地を選定しいよいよ工事を始めてみると気象方面の不都合な点が出て来て中止する事となり、約五百万円くらいの金を棒に振ったという事である。『ネチュアー』の記者はこれについて大いに当局・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・ 一針縫うのに十五秒ないし三十秒かかるであろうし、それに針や糸を渡し受取り、布片を延べたり、○印を一つ選定したりするにもかれこれ此れと同じくらいはかかる。それであとからあとから縫い手が押しかけてくれればともかく、そうでないとすると一分に・・・ 寺田寅彦 「千人針」
・・・しかし果して蜂がその本能あるいは智慧で判断していったん選定した場所を、作業の途中で中止して他所へ移転するというような事があるものか、ないものか、これは専門の学者にでも聞いてみなければ判らない事である。 もしSの判断が本当であったとしたら・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
出典:青空文庫