・・・ 紙屋だったと云う田口一等卒は、同じ中隊から選抜された、これは大工だったと云う、堀尾一等卒に話しかけた。「みんなこっちへ敬礼しているぜ。」 堀尾一等卒は振り返った。なるほどそう云われて見ると、黒々と盛り上った高地の上には、聯隊長・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・そうして水練の上手な兵士を三十人選抜して、秋山大尉を捜させようと云うんだ。その人選のなかへ、私のとこの忰も入ったのさね。」 吉兵衛さんの顔が、紅く火照って来た。そして口にする間もない煙管を持ったまま、火鉢の前に立膝をしていた。鼻の下にす・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・ この傾向を首肯いつつ、文芸委員のするという選抜賞与の実際問題に向うならば、公平にして真に文界の前途を思うものは、誰しもその事業に伴う危険と困難とを感ずべきはずである。さまで優劣の階段を設くる必要なき作品に対して、国家的代表者の権威と自・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・それからマリヤの夜の時間は家計簿の記入と中等教員選抜試験準備のためにつかわれて、朝の二時三時まで二つしか椅子のないキュリー夫婦の書斎での活動はつづきます。 一八九七年、マリヤは長女のイレーヌを生み、彼女の家庭生活と科学者としての生活は一・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・みんな金属工場から志願し、選抜されて来ている連中だ。大柄な、頼もしい婦人青年同盟員たちだ。 寄宿舎を、やはり女で、政治的活動をやっている同志に案内されて見学したとき彼女は、或ひとつのドアを外からコツコツと叩いた。内から元気な若い女の声が・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ 生涯の目的が定まって居ないからこれから先行く学校は自分でも分らず親類の者の考えで蔵前を受けて誰でもが予想して居た通りの結果で選抜されるほどの頭も鬼っ子で持って居なかった。 或る学校の補欠の試験を受けるつもりで当人は居るけれ共身内の・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・ドイツへの留学生を選抜するため農商務省でドイツ語の論文をかかせられ、一等になって、もう旅券が下りるというとき、あれは下島にしては出来すぎだ、兄が論文を書いたのだろうという中傷が加えられた。そして、二等だった誰かべつの人がドイツへ行った。下島・・・ 宮本百合子 「道灌山」
出典:青空文庫