・・・所得百円となる計算也一 此分配法ニ異議ありとも変更を許さず右之通明治四十二年三月二十二日 露都病院にて長谷川辰之助長谷川静子殿長谷川柳子殿 遺族善後策これは遺言ではなけれど・・・ 二葉亭四迷 「遺言状・遺族善後策」
・・・そのために、事件がわけがわからないものであると一緒に、下山氏に対する、また遺族に対する世間の人間的な同情さえそらされている結果になってしまっている。下山事件は国鉄整理と労働者階級の弾圧のために実に政治的に利用されました。 三鷹事件は、数・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 先年物故した或る作家の遺族の話が出た折、ある事情に通じたひとが「こんなになる位なら、早く結婚させてやるのだった」云々という意味のことを云い、その、させてやる云々という言葉づかいのうちにある重い、家長権的な表情を、私は一人の女として苦痛・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・したがって、故人の遺族は思いがけなく主人の身の上におこった悲劇によって、妻は主婦として行手の寒さに身をふるわせ、子息たちは、アルバイト学生の境遇を、自身たちの明日の身の上にうけ入れにくく思っただろうということもありえないことではない。良人を・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・となった人々への哀悼、遺族への慰問の責任を表明した。けれども、当時あの新聞をよんだ一般市民は、阿佐操縦士の妹きくえさんの言葉をどう受けとっただろう。きくえさんは、涙に頬を濡して、「無電がついていなかったんでしょうか。無電があったら、兄は決し・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・山代巴、「遺族」「別離の賦」「娘の恋」竹本員子、「流れ」宮原栄、「死なない蛸」「朝鮮ヤキ」譲原昌子。その社会的基盤のひろさ、多様さにふさわしく、これらの婦人たちは人民の文学としての発言の可能を示しはじめている。けれども、人民生活と文学との苛・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・しかし、それが非現実であるのは、夏目漱石の遺族がどんなに印税をとったにしろ、岩波書店ほど金もちにならなかった一事をみてもわかる。現代の殆ど全部の文筆家・作家は出版企業のために、その利潤を得るために働いている。原稿料・印税で賃銀をしはらわれ、・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・こういう神秘主義を様々の形にかえてコケおどしの慰霊祭のおかげで、支配者たちは自分の利益のために殺した満蒙出征戦死兵の窮迫した遺族からの反抗をふせいでいるのだ。軍国主義をあふり得るのだ。 イギリスのロッジ博士が戦死した息子からの霊界消息を・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・それは学校教員・警察官その他待遇職員の未亡人たちが遺族扶助料をもらいながら再婚し、しかも扶助料をとりあげられぬため、内縁関係にしているのがおびただしい数にのぼるので、東京府の恩給掛はこの際徹底的に調べて、内縁でも再婚している未亡人の扶助料は・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・そして殉死者の遺族が主家の優待を受けるということを考えて、それで己は家族を安穏な地位において、安んじて死ぬることが出来ると思った。それと同時に長十郎の顔は晴れ晴れした気色になった。 四月十七日の朝、長十郎は衣服を改めて母の前に出て、・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫