・・・大正四年に、勾当の正孫、葛原※氏が、その祖父君の遺業を、写真数葉、勾当年譜、逸話集等と共にまとめて見事な一本と為し、「葛原勾当日記」と銘題打って、ひろく世に誇示なされる迄は、わずかに琴の上手として一地方にのみ知られていただけのものでは無かっ・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・紅葉山人が、用語の上に非常な苦心をもって、新らしい試をされたのだけでも氏の遺業は大なるものであると尊ぶのである。 一葉女史にしても、そのまれに見る才筆にはいかなる賛辞も惜しまないのである。 けれ共、今云った様な事を感じたのは、かくす・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・寺田氏の科学的業績を云々する資格はもとよりないのであるけれども、文学的遺業について見ると、寺田氏がこの人生に向った角度にあらそわれぬ明治時代色があり、同時代の食うに困らなかった知識人の高級なディレッタンティズムが漂っているのである。文学的才・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
出典:青空文庫