・・・と見ると、怪し火は、何と、ツツツと尾を曳きつつ、先へ斜に飛んで、その大屋根の高い棟なる避雷針の尖端に、ぱっと留って、ちらちらと青く輝きます。 ウオオオオオ 鉄づくりの門の柱の、やがて平地と同じに埋まった真中を、犬は山を乗るように入り・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・ 七 明眸の左右に樹立が分れて、一条の大道、炎天の下に展けつつ、日盛の町の大路が望まれて、煉瓦造の避雷針、古い白壁、寺の塔など睫を擽る中に、行交う人は点々と蝙蝠のごとく、電車は光りながら山椒魚の這うのに似ている。・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ただ遠い病院の避雷針だけが、どうしたはずみか白く光って見える。 原っぱのなかで子供が遊んでいた。見ていると勝子もまじっていた。男の児が一人いて、なにか荒い遊びをしているらしかった。 勝子が男の児に倒された。起きたところをまた倒された・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ 豚や鶏は時々隊をはなれて道傍の芝生へそれようとするのを、小さな針金のような鞭でコツコツとつっついては列に追い返している男がいる。 避雷針のようなものの付いた兜形の帽子を着た巡査が、隊の両側を護衛している。 巡査がどれもこれも・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・裁判所の赤煉瓦も、避雷針のある県庁や、学校のいらかも、にぶく光っている坪井川の流れも、白い往還をかすかにうごいている馬も人も、そして自分も、母親も、だれもかれも、うすよごれて、このたいくつな味気ない町にしばりつけられてるようにみえた。「・・・ 徳永直 「白い道」
出典:青空文庫