・・・粗暴と邪悪とを知らぬかのようだ。自分たちより脆くできてはいるが、品が高そうだ。そして何という美しい声を持ってることだろう。 彼の女たちはいうように見える。「立派な男子におなんなさい。私たちに相応しいもののために私たちの美はあるのです・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・第二には、梟悪・奸悪等の「邪悪の人物」であります。『弓張月』で申しますれば曚雲だの利勇だの、『八犬伝』で申しますれば蟇田素藤だの山下定包だの馬加大記だのであります。第三には「端役の人物」で、大善でもない、大悪でもない、いわゆる平凡の人物であ・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・人間の生活が現在にあるよりももっと条理にかなった運営の方法をもち、互に理解しあえる智慧とその発露を可能にする社会の方がより人間らしく幸福だという判断、あこがれに、何の邪悪な要素があるだろう。よりひろやかで、充実した人間性を求めるということの・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
人類が、生命の本然によりて掛ける祈願の前に、私共は謙譲であり、愛に満ちてありたい。 あらゆる悲惨の彼方へ、あらゆる不正と、邪悪との彼方へ! 其れは利己的な、一寸法師の「我」が探求する事なのではないのだ、と想う。お互の魂・・・ 宮本百合子 「断想」
出典:青空文庫