・・・そら、いつか張継尭と譚延との戦争があった時だね、あの時にゃ張の部下の死骸がいくつもこの川へ流れて来たもんだ。すると又鳶が一人の死骸へ二羽も三羽も下りて来てね………」 丁度譚のこう言いかけた時、僕等の乗っていたモオタア・ボオトはやはり一艘・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・ そこへ舞台には一方から、署長とその部下とが駈けつけて来た。が、偽目くらと挌闘中、ピストルの弾丸に中った巡査は、もう昏々と倒れていた。署長はすぐに活を入れた。その間に部下はいち早く、ピストル強盗の縄尻を捉えた。その後は署長と巡査との、旧・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・川島は彼等に一枚ずつその画札を渡しながら、四人の部下を任命した。ここにその任命を公表すれば、桶屋の子の平松は陸軍少将、巡査の子の田宮は陸軍大尉、小間物屋の子の小栗はただの工兵、堀川保吉は地雷火である。地雷火は悪い役ではない。ただ工兵にさえ出・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・「けれどもここに起立していてはわたくしの部下に顔も合わされません。進級の遅れるのも覚悟しております。」「進級の遅れるのは一大事だ。それよりそこに起立していろ。」 甲板士官はこう言った後、気軽にまた甲板を歩きはじめた。K中尉も理智・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・ 日露戦役後、度々部下の戦死者のため墓碑の篆額を書かせられたので篆書は堂に入った。本人も得意であって「篆書だけは稽古したから大分上手になった、」と自任していた。私は今人の筆蹟なぞに特別の興味を持ってるのではないが、数年前に知人の筆蹟を集・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
昨日 当時の言い方に従えば、○○県の○○海岸にある第○○高射砲隊のイ隊長は、連日酒をくらって、部下を相手にくだを巻き、○○名の部下は一人残らず軍隊ぎらいになってしまった。 彼は蓄音機という綽名を持ち、一年三百六十五日、一日も・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・中隊長は、前哨に送った部下の偵察隊が、××の歩哨と、馴れ/\しく話し合い、飯盒で焚いた飯を分け、相手から、粟の饅頭を貰い、全く、仲間となってしまっているのを発見して、真紅になった。「何をしているか!」 中隊長は、いきなり一喝した。・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・近松少佐は思うままにすべての部下を威嚇した。兵卒は無い力まで搾って遮二無二にロシア人をめがけて突撃した。――ロシア人を殺しに行くか、自分が×××るか、その二つしか彼等には道はないのだ! けれども、そのため、彼等の疲労は、一層はげしくなったば・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・彼は、部下よりも、もっと精気に満ちた幸福を感じていた。背後の村には燃えさしの家が、ぷすぷす燻り、人を焼く、あの火葬場のような悪臭が、部隊を追っかけるようにどこまでも流れ拡がってついてきた。けれども、それも、大隊長の内心の幸福を妨げなかった。・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・一箇の釜は飯が既に炊けたので、炊事軍曹が大きな声を挙げて、部下を叱して、集まる兵士にしきりに飯の分配をやっている。けれどこの三箇の釜はとうていこの多数の兵士に夕飯を分配することができぬので、その大部分は白米を飯盒にもらって、各自に飯を作るべ・・・ 田山花袋 「一兵卒」
出典:青空文庫