・・・しかし年月はこの厭世主義者をいつか部内でも評判の善い海軍少将の一人に数えはじめた。彼は揮毫を勧められても、滅多に筆をとり上げたことはなかった。が、やむを得ない場合だけは必ず画帖などにこう書いていた。君看双眼色不語似無愁・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・と云っていた。部内の世話は勿論、部員学生の一身上の心配までした。 鉄腸居士を父とし、天台道士を師とし、木堂翁に私淑していたかと思われる末広君には一面気鋒の鋭い点があり痛烈な皮肉もあった。若い時分には、曲ったこと、間違ったことと思う場合は・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ 司法省の部内にも種々の動きが在ることを新聞は報じている。そして、その動きは、二枚の種板が一つの暗箱の中でずって動くように、上層官吏と下級官吏との間で、いくらかずつ異った利害をもっているのだろうとも、推察される。しかし、概括して、民主的・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
出典:青空文庫