・・・目の前にひろげられたのはただ、長いしかも乱雑な石の排列、頭の上におおいかかるような灰色の山々、そうしてこれらを強く照らす真夏の白い日光ばかりである。 自然というものをむきつけにまのあたりに見るような気がして自分はいよいよはげしい疲れを感・・・ 芥川竜之介 「槍が岳に登った記」
・・・予の屡繰返す如く、欧人の晩食の風習や日本の茶の湯は美食が唯一の目的ではないは誰れも承知して居よう、人間動作の趣味や案内の装飾器物の配列や、応対話談の興味や、薫香の趣味声音の趣味相俟って、品格ある娯楽の間自然的に偉大な感化を得るのであろう・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ これ傳説の傳説たる所以にして、堯は天に、舜は人に、禹は地に、即ちかの三才の思想に假托排列せられしものなるを知る也。 更に之をその内容より觀察するに、堯典には帝が羲・和二氏に命じて天文を觀測せしめ民に暦を頒ちしをいひ、羲仲を嵎夷に居・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・は、だいたい、発表の年代順に、その作品の配列を行い、この第二巻は、それ故、第一巻の諸作品に直ぐつづいて発表せられたものの中から、特に十三篇を選んで編纂せられたのである。 ところで、私の最初の考えでは、この選集の巻数がいくら多くなってもか・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・また、弘化二年、三十四歳の晩春、毛筆の帽被を割りたる破片を机上に精密に配列し以て家屋の設計図を製し、之によりて自分の住宅を造らせた。けれども、この家屋設計だけには、わずかに盲人らしき手落があった。ひどい暑がりにて、その住居も、風通しのよき事・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・こうしてほごした材料を一つ一つ取り出して元の紙の上にいろいろに排列してみる。するとそこにできたものは未来派の絵のあるものの写真とよく似たものができるだろうと思う。 しかしそのような排列のあらゆる可能な変化のうちで、何かしらだらしなく見え・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・ 次に重要な要素は何と云っても母音の排列である。勿論子音の排列分布もかなり大切ではあるが、日本語の特質の上からどうしても子音の役割は母音ほど重大とは考えられない。これがロシア語とかドイツ語とかであってみれば事柄はよほどちがって来るが、そ・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・この場面の群衆の運動の排列が実際非常に音楽的なものである。決していいかげんの狂奔ではなくて複雑な編隊運動になっていることがわかる。 役者も皆それぞれにうまいようである。アメリカ役者にはどこを捜してもない一種の俳味といったようなものが、こ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 汽車でアーヴルに着いてすっかり港町の気分に包まれる、あの場面のいろいろな音色をもった汽笛の音、起重機の鎖の音などの配列が実によくできていて、ほんとうに波止場に寄せる潮のにおいをかぐような気持ちを起こさせる。発声映画の精髄をつかんだもの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・それらの経験と実験の、すべての結果を整理し排列して最後にそれらから帰納して方則の入り口に達した。 文学は、そういう意味での「実験」として見ることはできないか。これが次に起こる疑問である。 実験としての文学と科学 ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫