・・・そこは自然の配剤だね。人が進めば、ひょいと五六尺退って、そこで、また、おいでおいでをしているんだ。碧緑赤黄の色で誘うのか知らん。」 蜻蛉では勿論ない。それを狙っているらしい。白鷺が、翼を開くまでもなかった。牡丹の花の影を、きれいな水から・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・これらは発声映画と無声映画との特長をそれぞれ充分に把握した上で、巧みに臨機にそれを調合配剤しているものと判断されることはたしかである。しかしこのような見え透いた細工だけであれほどの長い時間観客を退屈させないでぐいぐい引きずり回して行くだけの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・自然界ではこのように、利己がすなわち利他であるようにうまく仕組まれた天の配剤、自然の均衡といったようなものの例が非常に多いようである。よく考えてみると人間の場合でも、各自が完全に自己を保存するように努力さえしていれば結局はすべての他のものの・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・それを飲みやすくするために医者はこれに少量のコーヒーを配剤することを忘れなかった。粉にしたコーヒーをさらし木綿の小袋にほんのひとつまみちょっぴり入れたのを熱い牛乳の中に浸して、漢方の風邪薬のように振り出し絞り出すのである。とにかくこの生まれ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
出典:青空文庫