・・・もっとも風中と保吉とは下戸、如丹は名代の酒豪だったから、三人はふだんと変らなかった。ただ露柴はどうかすると、足もとも少々あぶなかった。我々は露柴を中にしながら、腥い月明りの吹かれる通りを、日本橋の方へ歩いて行った。 露柴は生っ粋の江戸っ・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・そう云う中にたった一人、蟹のために気を吐いたのは酒豪兼詩人の某代議士である。代議士は蟹の仇打ちは武士道の精神と一致すると云った。しかしこんな時代遅れの議論は誰の耳にも止るはずはない。のみならず新聞のゴシップによると、その代議士は数年以前、動・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・二十人ちかい常連は、それぞれ世に名も高い、といっても決して誇張でないくらいの、それこそ歴史的な酒豪ばかりであったようだが、しかし、なかなか飲みほせなかった様子であった。私はその頃は、既に、ひや酒でも何でも、大いに飲める野蛮人になりさがってい・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・さすがの酒豪たちも、ウイスキイのドブロクは敬遠の様子でした。 私だけが酔っぱらい、「なんだい、君たちは失敬じゃあないか。てめえたちが飲めない程の珍妙なウイスキイを、客にすすめるとは、ひどいじゃないか。」 と笑いながら言って、記者・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
出典:青空文庫