・・・の教育資料とか何とか、そんな事なら話はわかるが、道楽隠居が緋鯉にも飽きた、ドイツ鯉もつまらぬ、山椒魚はどうだろう、朝夕相親しみたい、まあ一つ飲め、そんなふざけたお話に、まともにつき合っておられますか。酔狂もいい加減になさい。こっちは大事な商・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・ある、なんて、いやな事が書かれてあったが、浮気の真似をする奴は、やっぱり浮気、奇妙に学者ぶる奴は、やっぱり本当の学者、酒乱の真似をする奴は、まさしく本物の酒乱、芸術家ぶる奴は、本当の芸術家、大石良雄の酔狂振りも、あれは本物、また、笑いながら・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・ くずれ終わると見物人は一度に押し寄せたが、酔狂な二三の人たちは先を争って砕けた煉瓦の山の頂上へ駆け上がった。中にはバンザーイと叫んだのもいたように記憶する。明治煉瓦時代の最後の守りのように踏みとどまっていた巨人が立ち腹を切って倒れた、・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・最後に、なぜ私がここにこうやって出て来て、しきりに口を動かしているかと云えば、これは酔狂や物数奇で飛出して来たと思われては少し迷惑であります。そこにはそれ相当な因縁、すなわち先刻申上げた大村君の鄭重なる御依頼とか、私の安受合とか、受合ったあ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・るものなるを、世の論者は、往々その原因を求めずして、ただ現在の事相に驚き、今の少年は不遜なり軽躁なり、漫に政治を談じて身の程を知らざる者なりとて、これを咎る者あれども、かりにその所言にしたがいてこれを酔狂人とするも、明治年間今日にいたりてに・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・昔の馬鹿侍が酔狂に路傍の小民を手打にすると同様、情け知らずの人非人として世に擯斥せらる可きが故に、斯る極端の場合は之を除き、全体を概して言えば婚姻法の実際に就き女子に大なる不平はなかる可し。一 父母が女子の為めに配偶者を求むるは至極の便・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・別品といい色男といい、愉快といい失策というが如き、様々の怪語醜言を交え用いて、いかなる談話を成すや。酔狂喧嘩の殺風景なる、固より厭うべしといえども、花柳談の陰醜なるは酔狂の比にあらざるなり。もしも外国人の中に、日本語に通ずること最も巧みにし・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・「何ぼ私が酔狂だって、何時なおるか分らない様な病人の嫁さんに居てもらいたいんじゃありませんよ。若し、何と云っても自分の懐をいためるのがいやだと云うんなら誰の苦情があっても、子供のないうちにさっさと引き取らせて仕舞う。 頭の先から・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・人類の意向は、酔狂ではないのだ。 皆が友と成らなければ成らない。皆が互に、互の献物を大切に仕合ってと運ぶべき処が在るのでは無いだろうか、私共の生活を透して、相互に理解し、心から協力し合える範囲が、若し所謂人情の領域にのみ限られているもの・・・ 宮本百合子 「断想」
出典:青空文庫