・・・ 夜業禁止や、時間制により、工場はある不幸な児童等は救はれたのであるが、尚、眼に見えざる場処に於ての酷使や、無理解より来る強圧を除くには、社会は、常に警戒し、防衛しなければならぬであろう。そして、積極的に彼等がいかなる、境遇に置かれつゝ・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・昔から、手の下の罪人ということわざの如く、強い者が、感情のまゝに弱い者に対する振舞というものは、暴虐であり、酷使であり、無理解であった場合が多かったようです。即ち、彼等の親達もしくは主人が、社会から受ける物質上、または精神上の貧困と絶望とは・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ たとえば、屠殺場へ引かれて行く、歩みの遅々として進まない牛を見た時、或は多年酷使に堪え、もはや老齢役に立たなくなった、脾骨の見えるような馬を屠殺するために、連れて行くのを往来などで遊んでいて見た時、飼主の無情より捨てられて、宿無しとな・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・で彼は、彼等の酷使に堪え兼ねては、逃げ廻る。食わず飲まずでもいゝからと思って、石の下――なぞに隠れて見るが、また引掴まえられて行く。……既に子供達というものがあって見れば! 運命だ! が、やっぱし辛抱が出来なくなる。そして、逃げ廻る。……・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・懐手をして、彼等を酷使していた者どものためだ。それは、××××なのだ。 敵のために、彼等は、只働きをしてやっているばかりだ。 吉永は、胸が腐りそうな気がした。息づまりそうだった。極刑に処せられることなしに兵営から逃出し得るならば、彼・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 彼等の銃剣は、知らず知らず、彼等をシベリアへよこした者の手先になって、彼等を無謀に酷使した近松少佐の胸に向って、奔放に惨酷に集中して行った。 雪の曠野は、大洋のようにはてしなかった。 山が雪に包まれて遠くに存在している。しかし・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・満洲や台湾の苦力や蕃人を動物を使うように酷使して、しこたま儲けてきた金で、資本家は、ダラ幹や、社会民主主義者どもにおこぼれをやるだろう。しかし、革命的プロレタリアートに対しては、徹底的に弾圧の手をゆるめやしないのだ。 なお、そればかりで・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・若い時分、野良で過激に酷使しすぎた肉体は、年がよるに従って云うことをきかなくなった。 親爺は、肥桶をかついだり、牛を使ったりするのを、如何にも物憂げに、困難げにしだしていた。米俵をかつぐのは、もう出来ないことだった。晩には彼は眠られなか・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・コールド・ウォー こうなったら、とにかく、キヌ子を最大限に利用し活用し、一日五千円を与える他は、パン一かけら、水一ぱいも饗応せず、思い切り酷使しなければ、損だ。温情は大の禁物、わが身の破滅。 キヌ子に殴られ、ぎゃっとい・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・出て行くとき彼女は長い廊下を見送る看護婦たちにとりまかれながら、いささかの羞ずかしさのために顔を染めてはいたものの、傲然とした足つきで出ていった、それは丁度、長い酷使と粗食との生活に対して反抗した模範を示すかのように。その出て行くときの彼女・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫