・・・もっともまた醜婦と言うほどでもない。ただまるまる肥った頬にいつも微笑を浮かべている。奉天から北京へ来る途中、寝台車の南京虫に螫された時のほかはいつも微笑を浮かべている。しかももう今は南京虫に二度と螫される心配はない。それは××胡同の社宅の居・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・あの醜婦どもどうするものか。見なさい、アレアレちらほらとこうそこいらに、赤いものがちらつくが、どうだ。まるでそら、芥塵か、蛆が蠢めいているように見えるじゃあないか。ばかばかしい」「これはきびしいね」「串戯じゃあない。あれ見な、やっぱ・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・たとえばキャサリン・ヘプバーン型の美人と醜婦を一人ずつ捜し出すのなどははなはだ容易であろう。 食堂の女給の制服は腕を露出したのが多い。必然の結果として食物を食卓に並べるとき露出された腕がわれわれの面前にさし出される。日本で女の子の腕を研・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 六 お出額で鼻が小さくて目じりが下がって、というのは醜婦の棚おろしのように聞こえる。しかし、これは現代美人の一つの型の描写の少なくも一部分をなすものである。 おでこは心の広さを現わし、小さく格好よく引きしま・・・ 寺田寅彦 「破片」
出典:青空文庫