・・・気絶しようが、のめろうが、鼻かけ、歯かけ、大な賽の目の出次第が、本望でしゅ。」「ほ、ほ、大魚を降らし、賽に投げるか。おもしろかろ。忰、思いつきは至極じゃが、折から当お社もお人ずくなじゃ。あの魚は、かさも、重さも、破れた釣鐘ほどあって、の・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・弁慶が、ちょうはん、熊坂ではなく、賽の目の口でも寄せようとしたのであろう。が、その女振を視て、口説いて、口を遁げられたやけ腹に、巫女の命とする秘密の箱を攫って我が家を遁げて帰らない。この奇略は、モスコオの退都に似ている。悪孫八が勝ち、無理が・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ と賽の目に切った紙片を、膝にも敷物にもぱらぱらと夜風に散らして、縞の筒袖凜々しいのを衝と張って、菜切庖丁に金剛砂の花骨牌ほどな砥を当てながら、余り仰向いては人を見ぬ、包ましやかな毛糸の襟巻、頬の細いも人柄で、大道店の息子株。 押並・・・ 泉鏡花 「露肆」
出典:青空文庫