・・・ その下の棚に青い釉薬のかかった、極めて粗製らしい壷が二つ三つ塵に埋れてころがっているのを拾い上げて見た。実に粗末なものではあるが、しかし釉の色が何となく美しく好もしいので試しに値を聞くと五拾銭だという。それでは一つ貰いましょうと云って・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・濃い紅釉薬の支那風の鉢とこっくり黄色い粟の色のとり合わせが美しく、明るい卓の上に輝やいた。女将は仲間でお茶人さんと云われ、一草亭の許へ出入りしたりしていた。小間の床に青楓の横物をちょっと懸ける、そういう趣味が茶器の好みにも現われているのであ・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・棚には、紅釉薬の支那大花瓶が飾ってある。その上、まだ色彩の足りないのを恐れるかのように、食卓の一つ一つに、躑躅、矢車草、金蓮花など、一緒くたに盛り合わせたのが置いてある。年寄の、皺だらけで小さい給仕が、出て来た。空腹ではあったし、料理は決し・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫