・・・まことに重宝な文句であります。私もちょっと拝借しようと思うのですが、前に述べた意識の連続以外にこんな変挺なものを建立すると、意識の連続以外に何にもないと申した言質に対して申訳が立ちませんから、残念ながらやめに致して、この傾向は意識の内容を構・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・当るのだから、それが日に百本も売れる以上は、我々の購買力が此の便利ではあるが贅沢品と認めなければならないものを愛玩するに適当な位進んで来たのか、又は座右に欠くべからざる必要品として価の廉不廉に拘わらず重宝がられるのか何方かでなければならない・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・この金力を同じくそうした意味から眺めると、これは個性を拡張するために、他人の上に誘惑の道具として使用し得る至極重宝なものになるのです。 してみると権力と金力とは自分の個性を貧乏人より余計に、他人の上に押し被せるとか、または他人をその方面・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・第四、大きい卓子を置き、傍に瓦斯ストーブ、コンロ、アメリカ辺でやっているように、平常は調理台に使う卓子の、上板をはねると、洗濯桶になっているのも、重宝でしょう。この卓子の横に、蝶番で倒れる、火のし台をつける。冷蔵庫、野菜貯蔵箱な・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・『読売新聞』夕刊につく重宝欄は、おそらく大抵の女のひとに一応は読まれているであろう。だがああいうものは、教養とは凡そ反対の社会相を反映するものだと思う。今日の世の中で、体裁よい小市民生活をやりくってゆくためには、家庭の女がどんなせっぱつ・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・今年のお盆に、母上がお金を下さり、重宝な箪笥とワードローブを買った。 目下、H町とAとの間にこだわりのある外、生活は滞りなく運行して居ると云ってよいだろう。 Aは健康で、女子学習院、明治、慶応に教え、岩波書店から、彼の最初の著述、「・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 計らず手に入ったこの腕時計を私は重宝し、無事息災に五年間もっていた。たまには手頸につけたり、多くの時はハンドバッグに入れたりして。出来のよいのに当ったと見えて、この時計は殆ど進んだりおくれたりしたことがなかった。その正確さを私は深く愛・・・ 宮本百合子 「時計」
・・・ 洋服暮しのとき、部屋着として少しさっぱりした縞や小紋の着物地で拵え、随分重宝してからずっともう幾冬もそれを離さない。日本の部屋で、洋装ぐらしをする女のひとは、案外そんな部屋着が役に立ち、又安楽で、しかも一寸そのまま人前に出ても大して失・・・ 宮本百合子 「働くために」
・・・政治・経済・時事問題に関する解説的記事とともに、『婦人戦旗』に持たなかった相談欄・言葉の欄・家庭婦人のための「重宝ノート」などまで『働く婦人』には包括されている。数多のブルジョア婦人雑誌がそれを共通な特徴として婦人大衆の日常的な要求に訴えて・・・ 宮本百合子 「婦人雑誌の問題」
・・・家の重宝は命にも換えられぬ」と蜂谷は言った。「誓言を反古にする犬侍め」と甚五郎がののしると、蜂谷は怒って刀を抜こうとした。甚五郎は当身を食わせた。それきり蜂谷は息を吹き返さなかった。平生何事か言い出すとあとへ引かぬ甚五郎は、とうとう蜂谷の大・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫