若い蘇峰の『国民之友』が思想壇の檜舞台として今の『中央公論』や『改造』よりも重視された頃、春秋二李の特別附録は当時の大家の顔見世狂言として盛んに評判されたもんだ。その第一回は美妙の裸蝴蝶で大分前受けがしたが、第二回の『於母影』は珠玉を・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・之を重視するのが誤まっておるのだが、二十五六年前には全然社会から無視せられていた文芸の存在を政府が認めて文芸審査に着手したのは左も右くも時代の大進歩である。 文学も亦一つの職業である。世間には往々職業というと賤視して顰蹙するものもあるが・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・当時、戯作者といえば一括して軽薄放漫なるがいがいしゃ流として顰蹙された中に単り馬琴が重視されたは学問淵源があるを信ぜられていたからである。 私が幼時から親しんでいた『八犬伝』というは即ちこの外曾祖父から伝えられたものだ。出版の都度々々書・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・父母の恩、師の恩、国土の恩、日蓮をつき動かしたこの感恩の至情は近代知識層の冷やかに見来ったところのものであり、しかも運命共同体の根本結紐として、今や最も重視されんとしつつあるところのものである。 しかるにその翌月、十一月十一日には果して・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・しかし折角、兵卒に着目しながら、花袋は、生と死を重視する生物としての人間をそこに見て、背後の社会関係や、その矛盾の反映し凝集した兵卒は見つけ出さなかった。また、見つけようともしなかった。そこに、自然主義者としての花袋の面目もある訳だが、それ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・国史のようなものがこれ迄より重視されることも意味はあるだろうけれども、数学・理科をより軽く見る傾きが極端になれば、それは過ぎたるは及ばずにもなる。年限の永さが教育の実質の高さを直接に証明するものでないことを常識は知りぬいていると思う。知育偏・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・ それはこの一月二十一日ごろのことであったと思うが、二十四日の新聞には、農林省で、米の強制供出案をもっていることと、警視庁が「板橋事件」重視しているということと、一層強くなっている食糧人民管理の潮先とが、並んで一枚の紙面を埋めているので・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ ラジオについて宣伝という面が画時代的に重視されているとすれば、聴きての生活から反映する心理的なものの科学的研究などは、第一に真面目にされるべきだろう。聴取料をはらっている家々の数は五百余万戸を超しているが、その何割が欠かさず聴いている・・・ 宮本百合子 「ラジオ時評」
出典:青空文庫