・・・「牛飼も何もいない。野放しだが大丈夫かい。……彼奴猛獣だからね。」「何ともしゃあしましねえ。こちとら馴染だで。」 けれども、胸が細くなった。轅棒で、あの大い巻斑のある角を分けたのであるから。「やあ、汝、……小僧も達しゃがな。・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・あの辺の自然はおう揚で規模の壮大な野放しの美に充ちているから、その位のありふれたロマンスでもきっとそうこせこせ極りわるい思いをさせずに存在させたでしょう。しかし、何という私はおばあさんに縁の深い人間だろう、私の拍子木に答えて来るのは、おばあ・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ 楽しそうで又悲しそうに初めて野放しの馬を見た私の心は思う。 まるで百年の昔にもどった様に平和な原始的な気分がみなぎって居る。 これからは青草も多く心のままに得られるだろうけれ共雪ばかり明け暮れ降りしきる北の国に定められた臥床も・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
出典:青空文庫