・・・いずれ、主人の方から、内証で入費は出たろうが、金子にあかして、その頃の事だから、人買の手から、その年月の揃ったという若い女を手に入れた。あろう事か、俎はなかろうよ。雨戸に、その女を赤裸で鎹で打ったとな。……これこれ、まあ、聞きな。……真白な・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・ もっとも、その前日も、金子無心の使に、芝の巴町附近辺まで遣られましてね。出来ッこはありません。勿論、往復とも徒歩なんですから、帰途によろよろ目が眩んで、ちょうど、一つ橋を出ようとした時でした。午砲!――あの音で腰を抜いたんです。土を引・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・織次は小児心にも、その絵を売って金子に代えるのである、と思った。……顔馴染の濃い紅、薄紫、雪の膚の姉様たちが、この暗夜を、すっと門を出る、……と偶と寂しくなった。が、紅、白粉が何んのその、で、新撰物理書の黒表紙が、四冊並んで、目の前で、ひょ・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・い合さるる事ばかりであるが、可し、それもこれも判事がお米に対する心の秘密とともに胸に秘めて何事も謂わず、ただ憂慮わしいのは女の身の上、聞きたいのは婆が金貨を頂かせられて、――「それから、お前がその金子を見せてもらうと、」 促して尋ね・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・可哀相でね、お金子を遣って旅籠屋を世話するとね、逗留をして帰らないから、旦那は不断女にかけると狂人のような嫉妬やきだし、相場師と云うのが博徒でね、命知らずの破落戸の子分は多し、知れると面倒だから、次の宿まで、おいでなさいって因果を含めて、…・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・すっかり身支度をして、客は二階から下りて来て――長火鉢の前へ起きて出た、うちの母の前へ、きちんと膝に手をついて、―― 分外なお金子に添えて、立派な名刺を――これは極秘に、と云ってお出しなすったそうですが、すぐに式台へ出なさいますから・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・行っていらっしゃいと云うて、その金子を請取ったんじゃ、可えか、諸君。ところでじゃ、約束通りに、あとの二円を持って、直ぐにその熊手を取りに来れば何事もありませんぞ。 そうら、それが遣って来ん、来んのじゃ諸君、一時間経ち、二時間経ち、十二時・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・おまけに、それが小春さんに、金子も、店も田地までも打込んでね。一時は、三月ばかりも、家へ入れて、かみさんにしておいた事もあったがね。」 ――初女房、花嫁ぶりの商いはこれで分った――「ちゃんと金子を突いたでねえから、抱えぬしの方で承知・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・早瀬 さあ、ここに金子がある、……下すったんだ、受取っておいておくれ。お蔦 (取ると斉手切れかい、失礼な、(と擲たんとして、腕の萎えたる状あの、先生が下すったんですか。早瀬 まだ借金も残っていよう、当座の小使いにもするように、と・・・ 泉鏡花 「湯島の境内」
・・・道中の胡麻の灰などは難有い御代の事、それでなくっても、見込まれるような金子も持たずさ、足も達者で一日に八里や十里の道は、団子を噛って野々宮高砂というのだから、ついぞまあこれが可恐しいという目に逢った事はないんだよ。」「いえ、そんな事では・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
出典:青空文庫