・・・ けれども律儀な老訓導は無口な私を聴き上手だと見たのか、なおポソポソと話を続けて、「……ここだけの話ですが、恥を申せばかくいう私も闇屋の真似事をやろうと思ったんでがして、京都の堀川で金巾……宝籤の副賞に呉れるあの金巾でがすよ、あれを・・・ 織田作之助 「世相」
・・・窓の両側から申訳のために金巾だか麻だか得体の分らない窓掛が左右に開かれている。その後に「シャッター」が下りていて、その一枚一枚のすき間から御天道様が御光来である。ハハーいよいよ春めいて来てありがたい、こんな天気は倫敦じゃ拝めなかろうと思って・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・隅に、紅金巾の帷を垂れた懺悔台がある。私共が御堂内にいる間に、女が二人参拝に来た。祭壇に近い柱のかげに坐り、包みから白い布を出してヴェイルとする。その被衣姿、二十六聖徒殉教図などに描かれているままであった。 同じ日に浦上の天主堂も観た。・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・窓には白地に花模様の金巾のカーテンが懸っていた。一畳ばかりの勝手を区切る戸の硝子は赤い木綿糸でロシア式刺繍をした覆いがかかっているし、二階から上って来る、ジェルテルスキー家の入口である襖の左右にも、アーチのように、海老茶色に白でダリヤの花の・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫