・・・ 川添いの地にいたので、何時となく釣魚の趣味を合点した。何時でも覚えたてというものは、それに心の惹かれることの強いものである。丁度その頃一竿を手にして長流に対する味を覚えてから一年かそこらであったので、毎日のように中川べりへ出かけた。中・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・濠洲の或る土人の如きは、其妻の死するや、之を山野に運び、其脂をとりて釣魚の餌となすと云う。 その若草という雑誌に、老い疲れたる小説を発表するのは、いたずらに、奇を求めての仕業でもなければ、読者へ無関心であるということへの・・・ 太宰治 「雌に就いて」
・・・もしこの池で釣魚をする事が禁ぜられてでもいるか、そうでないとすれば、この人はやはり自分のようなたちの、言わばすわりの悪い良心をもった人間だろうと思われた。そして悪い事をしていなくても、人から悪い事をしていると思われはしないかと思うと同時に、・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・釣針で捕るすなわち釣魚の義か。サカイ語では「カドー」でこれが門谷のカドに関係するかもしれない。土佐 門狭ですなわち佐渡の狭門に同じく狭い海峡をはいって行く国だとの説がある。しかしアイヌで「ツサ」は袖の義である。土佐の海岸どこに立って・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ わたくしは或日蔵書を整理しながら、露伴先生の『言』中に収められた釣魚の紀行をよみ、また三島政行の『葛西志』を繙いた。これによって、わたくしはむかし小名木川の一支流が砂村を横断して、中川の下流に合していた事を知った。この支流は初め隠坊堀・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・道楽と云えば誰も知っている。釣魚をするとか玉を突くとか、碁を打つとか、または鉄砲を担いで猟に行くとか、いろいろのものがありましょう。これらは説明するがものはないことごとく自から進んで強いられざるに自分の活力を消耗して嬉しがる方であります。な・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫