・・・池の断面の形をした鉄板の片を電磁石の間において、それに鉄くずを振りかけて、その磁力線の分布を、実地と比較した学生もあった。 池の氷が張りつめた上に、雪が積もると、その表面におもしろい紋のような模様ができる。これはドイツで Dampflc・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・そうして肉片を鋤の鉄板上に載せたのを火上にかざし、じわじわ焼いて食ったというのである。こういうあんまりうま過ぎるのはたいていうそに決まっていると言って皆で笑った。そのときの一説に「すき」は steak だろうというのがあった。日本人は子音の・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ わたくしは小名木川の堀割が中川らしい河の流れに合するのを知ったが、それと共に、対岸には高い堤防が立っていて、城塞のような石造の水門が築かれ、その扉はいかにも堅固な鉄板を以って造られ、太い鎖の垂れ下っているのを見た。乗合の汽船と、荷船や・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・ 彼女は熱い鉄板の上に転がった蝋燭のように瘠せていた。未だ年にすれば沢山ある筈の黒髪は汚物や血で固められて、捨てられた棕櫚箒のようだった。字義通りに彼女は瘠せ衰えて、棒のように見えた。 幼い時から、あらゆる人生の惨苦と戦って来た一人・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ 丁度、デッキと同じ大きさの、熱した鉄瓶の尻と、空気ほどの広さの、赤熱した鉄板と、その間の、******そうでもない。何のこたあない、ストーヴの中のカステラ見たいな、熱さには、ヨウリスだって持たないんだ。 で、水夫たちは、珍らしくも・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・寸ばかりにして中は護謨、糸の類にて充実投者が投げたる球を打つべき木の棒(長さ四尺ばかりにして先の方やや太く手にて持つ処一尺四方ばかりの荒布にて坐蒲団のごとく拵えたる基三個本基および投者の位置に置くべき鉄板様の物一個ずつ、攫者の後方に張りて球・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・調帯も、万一はずれた時下で働いている者に怪我させそうな場所は鉄板の覆いがかかっている。 更衣所で、男の着る作業服に着かえ、足先を麻の布でくるんで膝までの長靴をはいた。すっぽり作業帽をかぶって待っていると、自分も作業服にかえてドミトロフ君・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・甲冑の材料である鉄板の堅い感じ、その鉄板をつぎ合わせている鋲の、いかにもかっちりとして並んでいる感じ、そういう感じまでがかなりはっきりと出ているのである。それはこの鉄の武器が、人体などよりもはるかに強い関心の対象であったことを示すものであっ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫