・・・ある遠い国の炭鉱では鉱山主が爆発防止の設備を怠って充分にしていない。監督官が検査に来ると現に掘っている坑道はふさいで廃坑だということにして見せないで、検査に及第する坑だけ見せる。それで検閲はパスするが時々爆発が起こるというのである。真偽は知・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・何か嗅覚類似の感官にでもよるのか、それとも、偶然工場に舞い込んだ一匹が思いもかけぬ甘納豆の鉱山をなめ知っておおぜいの仲間に知らせたのか、自分には判断の手掛かりがない。 それはとにかく、現代日本の新聞の社会面記事として、こういうのは珍しい・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ それからその一家の経済的窮状や、死活問題の繋っている鉱山の話などしながら、次ぎ次ぎに運ばれる料理を食べていた。二 おひろの家へ行ってみると、久しく見なかったおひろの姉のお絹が、上方風の長火鉢の傍にいて、薄暗いなかにほの・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ゾラの小説にある、無政府主義者が鉱山のシャフトの排水樋を夜窃に鋸でゴシゴシ切っておく、水がドンドン坑内に溢れ入って、立坑といわず横坑といわず廃坑といわず知らぬ間に水が廻って、廻り切ったと思うと、俄然鉱山の敷地が陥落をはじめて、建物も人も恐ろ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・曙覧が実地に写したる歌の中に飛騨の鉱山を詠めるがごときはことに珍しきものなり。日の光いたらぬ山の洞のうちに火ともし入てかね掘出す赤裸の男子むれゐて鉱のまろがり砕く鎚うち揮てさひづるや碓たててきらきらとひかる塊つきて粉にする・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 道の左には地図にある通りの細い沖積地が青金の鉱山を通って来る川に沿って青くけむった稲を載せて北へ続いていた。山の上では薄明穹の頂が水色に光った。俄かに斉田が立ちどまった。道の左側が細い谷になっていてその下で誰かが屈んで何かしていた。見・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
よく晴れて前の谷川もいつもとまるでちがって楽しくごろごろ鳴った。盆の十六日なので鉱山も休んで給料は呉れ畑の仕事も一段落ついて今日こそ一日そこらの木やとうもろこしを吹く風も家のなかの煙に射す青い光の棒もみんな二人のものだった・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・母性保護の見地から婦人労働者の入坑を禁じた鉱山労働へ、女は石炭に呼ばれ、再び逆戻りしかけている。幼年労働の無良心な利用も問題とされているのである。 婦人が性の本然として生殖の任務をもっているということと、女は家庭にあるべきものという旧来・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ニューヨークの反戦デモに参加するばかりか、中野は三十年間転々としてアメリカであらゆる労役に従事していた間に、鉱山の大ストライキにプロレタリアとして夜も眠らず働いたことがある。なおかつ現在では自分の周囲におけるアメリカの子供の中からピオニイル・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 岩手の農民の息子 北海道の鉱山 父 事務所 兄 シキに入る 自分小学を出た位のとき トランセントをかついで山を歩く。 十七の年上京、小学二三年上の友達をたよって。くうに困って親に手紙を書いたら 親類教え・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
出典:青空文庫