・・・これがその場面場面でいろいろの違ったパースペクチヴで銀幕上に映出され進行する。始めにヒロインとその保護者がこの行列を見送る場面ではヒロインと観客は静止していて行列はその向こう側を横に通過する。次にこの行列の帰還を迎える場面でも行列はやはりわ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ それとほぼ同じようなわけで、もはや青春の活気の源泉の枯渇しかけた老年者が、映画の銀幕の上に活動する花やかに若やいだキュテーラの島の歓楽の夢や、フォーヌの午後の甘美な幻を鑑賞することによって、若干生理的に若返るということも決して不可能で・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
雨の往来から、くらい内部へ入って行ったら正面の銀幕に、一つ大きいシャンデリアが映し出されていた。そのシャンデリアの重く光る切子硝子の房の間へ、婚礼の白いヴェイルを裾長くひいた女の後姿が朦朧と消えこむのを、その天井の下の寝台・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・そのガラスづくりの巨大な建物が、銀幕の上で燃えとけて行く。やがて鉄骨だけの姿になった廃墟がうつし出されても、思い出は何と不思議だろう。その有様と私の心にある夏の夜のクリスタル・パレスの景色とは合わさって一つのものとなろうとしないのであった。・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・いかにもくっきりと、よかれあしかれ特徴を押し出して銀幕の上に自身を活かし切るようなひとは、これからにその出現を期待すべきことであろうと思う。〔一九三九年七月〕 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・音響もなく人声もせず、ただ街路樹の葉ごしに、大きく黒く銀幕の上で動く人物の足の一部分が見えたりする。――軈てそれを観に自分たちも室を去った。 三 風がきつい。石油が細いピストンのようなものの間から吹き出して・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫