・・・ 銀灰色の靄と青い油のような川の水と、吐息のような、おぼつかない汽笛の音と、石炭船の鳶色の三角帆と、――すべてやみがたい哀愁をよび起すこれらの川のながめは、いかに自分の幼い心を、その岸に立つ楊柳の葉のごとく、おののかせたことであろう。・・・ 芥川竜之介 「大川の水」
・・・そうして所々に露出した山骨は青みがかった真珠のような明るい銀灰色の条痕を成して、それがこの山の立体的な輪郭を鋭く大胆なタッチで描出しているのである。今までにずいぶん色々な山も見て来たが、この日この時に見た焼岳のような美しく珍しい色彩をもった・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・こまやかな銀灰色の体がぽってりと大らかで、白い頬、黒い頭、薄紅の嘴などは、あでやかな桃の咲く頃を想わせる。春の鳥という心がする。けれども、狙いをつけていざ飛ぼうなどとする時、翼を引緊めた姿を横から見ると、大きい肉色の嘴は、何という毒々しく、・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・街道の古い並木の下では赤い小猿が、手提琴の囃子につれて、日は終日帽子を振る。銀灰色の猫の児は今日も私のポーチで居睡っているだろう。 周囲は陽気で健康で、美しい。けれども今日は心が淋しい。重い苦しい寂寥では無い。今日の空気のように平明な心・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・低いソフト・カラアにネクタイを結び、茶っぽい毛糸のスウェータァの上へいきなり銀灰色の柔い上着を着ている。瘠せているが息子よりもっと背が高く、青い注意ぶかい、鋭い眼である。 ゴーリキイは低い椅子にかけ、片肱を膝に立てた恰好で、ゆっくり話す・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫