・・・赤いべべを着たお人形さんや、ロッペン島のあざらしのような顔をした土細工の犬やいろんなおもちゃもあったが、その中に、五、六本、ブリキの銀笛があったのは蓋し、原君の推奨によって買ったものらしい。景品の説明は、いいかげんにしてやめるが、もう一つ書・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・ 懐から一本の銀笛が出た。銀笛は軒燈の灯にきらきら反射した。銀笛はふたりの亭主を失った中年の女給に手渡された。 百姓のこのよさが、私を夢中にさせたのだ。それは小説のうえでなく、真実、私はこの百姓を殺そうと思った。 ――出ろ。・・・ 太宰治 「逆行」
・・・ 鶴は洗面所で嗽いして、顔も洗わず部屋へ帰って押入れをあけ、自分の行李の中から、夏服、シャツ、銘仙の袷、兵古帯、毛布、運動靴、スルメ三把、銀笛、アルバム、売却できそうな品物を片端から取り出して、リュックにつめ、机上の目覚時計までジャンパ・・・ 太宰治 「犯人」
・・・夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合せて、一晩銀笛を吹くのです。それがこの双子のお星様の役目でした。 ある朝、お日様がカツカツカツと厳かにお身体をゆすぶって、東から昇っておいでになった時、チュンセ童子は銀・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・それから日が少し西に落ちかけて森の上が赤くなる頃、私は銀笛を持ちローズは歌の本をもって小さい川を渡って森ん中に行き、紫の山を見て木の幹によっかかりながらローズは美くしい声でうたをうたい私はそれに合せて笛を吹きます。そうするともう気も遠くなる・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫