・・・ 問 彼は予が詩集を贈らざりしに怨恨を含めるひとりなるべし。予の全集は出版せられしや? 答 君の全集は出版せられたれども、売行きはなはだ振わざるがごとし。 問 予の全集は三百年の後、――すなわち著作権の失われたる後、万人の購うと・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ と因果を含めるようにいわれて、枝の鴉も頷き顔。「むむ、じゃ何だ、腰に鈴をつけて駈けまわるだ、帰ったら一番、爺様と相談すべいか、だって、お銭にゃならねえとよ。」 と奴は悄乎げて指を噛む。「いいえさ、今が今というんじゃないんだ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・雙眼涙を含める蒼ざめた顔を月はまともに照らす。「僕はね、若し彼女がお正さんのように柔和い人であったら、こんな不幸な男にはならなかったと思います。」「そんな事は、」とお正はうつむいた、そして二人は人家から離れた、礫の多い凸凹道を、静か・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・日本では、第二次大戦による現実からファシズム、帝国主義とたたかう民主主義文学の地盤はひろげられて、この軸に小市民に属する中小商工業者、勤め人、学生など複雑でひろい市民層を含める人民解放のための戦線ができたわけだった。徳永直の報告をきいている・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫