・・・これにやや近いものを求めれば、指紋鑑別のスケールのごときものがそれである。「あたわざるにあらず、成さざるなり」と言ってもさしつかえはないであろう。 それはとにかく、感官のもう一つの弱点は、個人個人による多少の差別の存在である。しかし、わ・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・ そういう場合における品種鑑別の正確度に関する疑いをいっそう強められるようになったのは、非常によく似ていて、しかも少しずつちがうというような草の種類が非常に多いという事実に気がついたからである。たとえば「いぬごま」とか「かわみどり」とか・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・このような障害の根を絶つためには、一般の世間が平素から科学知識の水準をずっと高めてにせ物と本物とを鑑別する目を肥やしそして本物を尊重しにせ物を排斥するような風習を養うのがいちばん近道で有効ではないかと思ってみた。そういう事が不可能ではない事・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・今の世は政治学芸のことに留らず日常坐臥の事まで一として鑑別批判の労をからなくてはならない。之がため鑑賞玩味の興に我を忘るる機会がない。平生わたくし達は心窃にこの事を悲しんでいるので、ここに前時代の遺址たる菊塢が廃園の如何を論じようという心に・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・また諸君のような画家の鑑別する色合は普通人の何十倍に当るか分らんでしょう。それも何のためかと云えば、元に還って考えて見ると、つまりは、うまく生きて行こうの一念に、この分化を促されたに過ぎないのであります。ある一種の意識連続を自由に得んがため・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・そのいろいろの一つ一つが鑑別されないから、全集や円本をとる。その気持はそのものとして在るままに感じられていたのだと思う。だから、その自然な自分には分らないという自覚が、次の段階では判ると思えたものに率直にとりつかせる動機となって、直接間接に・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・をもっていることをあげているのが宇野氏ただ一人であるというような、些細のようで案外文学の実質の鑑別力としては意味のふかい例となっても現れて来るのである。 四 広津和郎氏の「巷の歴史」宇野浩二氏「器用貧乏」「・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫