・・・彼らは気の毒な長女を見るにつけて、これから嫁にやる次女の夫として、姉のそれと同型の道楽ものを想像するにたえなくなった。それで金はなくてもかまわないから、どうしても道楽をしない保険付きの堅い人にもらってもらおうと、夫婦の間に相談がまとまったの・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・ 去年の春ごろ、内山敏氏が、ある雑誌にトーマス・マンの長女のエリカ・マンが、弟のクラウス・マンと共著した「生への逃亡」について、エリカ・マンの活動を紹介しておられた。この短い伝記は、感銘のふかいものであった。知識階級の若い聰明な女性が、・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 長女茉莉子さんの長子が、やはり西洋風の発音で、漢字名をつけられている。そのように、根はひろく、ふかいのである。 卓抜な芸術家は人間的磁力がきついものである。家庭のまわりのものに影響の及ぼさぬ程の熱気とぼしい存在で、巨大な芸術的天分・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 一八九七年、マリヤは長女のイレーヌを生み、彼女の家庭生活と科学者としての生活は一層複雑に多忙になったけれども、健康なマリヤは、すべての卓抜な女性が希うとおりそれらの生活の全面を愛して生きようとしました。「妻としての愛情も、母としての役・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・妹の長女である私は小さいとき、謙吉さんから養女にもらわれかかったことがあったという話も、いつか夫人につたわって、その指環をいただくことにもなったと思われる。七つ位の時、父から貰ったオパールの三つついた指環と、この指環と、二つが、きょう私のも・・・ 宮本百合子 「白藤」
野沢富美子の作品集『長女』に収められている「長女」「陽のない屋根」「過失」などは、いずれも現代日本の庶民の生活の偽らず飾らない記録として読者に迫って来る一種の力を持っている。綺麗ごとで生活の上皮を塗って暮している人々にとっ・・・ 宮本百合子 「『長女』について」
・・・ ロザリーが、これ等のことに心を悩している間に長男のハフ、長女のドラは、悦び勇んで寄宿学校に行ってしまいました。いよいよ彼女の心はきまりました。 良人は依然として「子供達は家庭に対して権利を持っている」「婦人の家庭に対する分担持場が・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・女子は二人ある。長女藤姫は松平周防守忠弘の奥方になっている。二女竹姫はのちに有吉頼母英長の妻になる人である。弟には忠利が三斎の三男に生まれたので、四男中務大輔立孝、五男刑部興孝、六男長岡式部寄之の三人がある。妹には稲葉一通に嫁した多羅姫、烏・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・その四人は、おばあ様が十七になった娘を桂屋へよめによこしてから、ことし十六年目になるまでの間に生まれたのである。長女いちが十六歳、二女まつが十四歳になる。その次に太郎兵衛が娘をよめに出す覚悟で、平野町の女房の里方から、赤子のうちにもらい受け・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・ 翌年仲平が三十、お佐代さんが十七で、長女須磨子が生まれた。中一年おいた年の七月には、藩の学校が飫肥に遷されることになった。そのつぎの年に、六十五になる滄洲翁は飫肥の振徳堂の総裁にせられて、三十三になる仲平がその下で助教を勤めた。清・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫