・・・エサウは焼肉のために長子権を抛ち、保吉はパンのために教師になった。こう云う事実を見れば足りることである。が、あの実験心理学者はなかなかこんなことぐらいでは研究心の満足を感ぜぬのであろう。それならば今日生徒に教えた、De gustibus n・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・蜂の毒の恐ろしい事を学んだ長子等は何も知らない幼い子にいろんな事を云って警めたりおどしたりした。自分は子供の時に蜂を怒らせて耳たぶを刺され、さんしちの葉をもんですりつけた事を想い出したりした。あの時分はアンモニア水を塗るというような事は誰も・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・この人の長子は早世し、次男の Joseph Halden Struttが家を継いだ。彼は陸軍大佐となり王党の国会議員となり、Duke of Leinster の娘の Lady Fitzgerald と結婚した。これがここに紹介しようとする物・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 森さんは去年細君に逝かれて、最近また十八になる長子と訣れたので、自身劇場なぞへ顔を出すのを憚かっていた。 森さんはまたお茶人で、東京の富豪や、京都の宗匠なぞに交遊があったけれど、高等学校も出ているので、宗匠らしい臭味は少しもなかっ・・・ 徳田秋声 「挿話」
人物 精霊 三人 シリンクス ダイアナ神ニ侍リ美くしい又とない様な精女 ペーン マアキュリの長子林の司こんもりしげった森の中遠くに小川がリボンの様に見える所。春の花は一ぱいに咲・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・ 長女茉莉子さんの長子が、やはり西洋風の発音で、漢字名をつけられている。そのように、根はひろく、ふかいのである。 卓抜な芸術家は人間的磁力がきついものである。家庭のまわりのものに影響の及ぼさぬ程の熱気とぼしい存在で、巨大な芸術的天分・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・又、日本の従来の如く、父の没後は長子が戸主となって、事業から交際まで主となって引継ぎをしなければならないのとは異い、幾人か同胞があれば交際、事業などは各自の選択によって行っている場所では、特に長子が多分の遺産を相続する必要がありません。・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫