・・・ 自分の感じたところでは、この映画の最もすぐれた長所であり、そうして容易にまねのできそうもないと思われる美点は、全巻を通じて流れている美しい時間的律動とその調節の上に現われたこの監督の鋭敏な肌理の細かい感覚である。換言すれば映画芸術の要・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そういうことにかけてはおそらく日本人がいちばん長じているはずだと思われるのに、その長所を利用しないのが返す返すも残念なことである。 五 イワン ドブジェンコのこの映画にも前の「大地」と同様な静的な画面をつないで行く手・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・それで、なるべく拾うべき長所の拾い落しのないためにはなるべく多数の審査員を選び、そうしてそれらの人達の合議によって及落を決したらよさそうに思われるが、そうなるとまた実行上かなり困難なことが起って来るのである。何故かというと、学者に限らず人間・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・この天成の妙機を捨てる代わりに、これを活用してその長所を発揮するような、そういう「科学の分派」を設立することは不可能であろうか。こういう疑問を起こさないではいられないほどにわれわれの感覚器官はその機構の巧妙さによってわれわれを誘惑するのであ・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・主張の長所を認むるの点において智者である。他意なく人のために尽さんとするの点において善人である。ただ自他の関係を知らず、眼を全局に注ぐ能わざるがため、わが縄張りを設けて、いい加減なところに幅を利かして満足すべきところを、足に任せて天下を横行・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・かかる立場から出来上った作物にはそれ相当の長所があると同時に短所もまた多く含まれている。作家は身辺の状況と天下の形勢に応じて時々その立場を変えねばならん。評家もまた眼界を広くして必要の場合には作物に対するごとにその見地を改めねば活きた批評は・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・だからいかな長所があっても、この長所を傷ける短所があって、この短所を忘れ得せしむるだけに長所が卓然としていない作物は、惜しいけれども文句がつきます。私はとくに惜しいけれどもと云いたい。惜しいと云うのは、すでに長所を認めた上の批評であり、かつ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・その研究をして反撥し合っているうちに対者の立場やら長所やらを自然と認めなければならないようになる。その時にある程度の同化はどうしても起るべきはずである。文壇がこの期に達した時には混戦の状態に陥いる。混戦の状態に陥ると一騎打の競争よりほかにな・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・西洋文化は前者の方向へ行ったものであり、東洋文化は後者の方向にその長所を有つということができる。しかし今や我々は自己矛盾性の根元に返って、真の矛盾的自己同一の立場から出立せねばならぬと思う。そこに東西文化の融合の途があるのである。而して私は・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・その時虚心平気に考えて見ると、始めて日本画の短所と西洋画の長所とを知る事が出来た。とうとう為山君や不折君に降参した。その後は西洋画を排斥する人に逢うと癇癪に障るので大に議論を始める。終には昔為山君から教えられた通り、日本画の横顔と西洋画の横・・・ 正岡子規 「画」
出典:青空文庫