・・・「君は長生きをしそうだったがね。」「そうかしら?」「僕等はみんなそう言っていたよ。ええと、僕よりも五つ下だね、」とSは指を折って見て、「三十四か? 三十四ぐらいで死んだんじゃ、」――それきり急に黙ってしまった。 僕は格別死ん・・・ 芥川竜之介 「死後」
・・・もうちっと長生きをしていりゃ、そのうちにはおれが仕方を考えて思い知らせてやろうものを、ふしあわせだか、しあわせだか、二人ともなくなって、残ったのはおまえばかり。親身といってほかにはないから、そこでおいらが引き取って、これだけの女にしたのも、・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・三 二葉亭は長生きしても終生煩悶の人 それなら二葉亭は旧人として小説を書くに方っても天下国家を揮廻しそうなもんだが、芸術となるとそうでない。二葉亭の対露問題は多年の深い研究とした夙昔の抱負であったし、西伯利から満洲を放浪し、・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ そこであるとき、巫女を呼んで、どうしたら自分は長生きができるだろうかと問われたのであります。巫女は秘術をつくして天の神さまにうかがいをたてました。そしていいましたのには、これから海を越えて東にゆくと国がある。その国の北の方に金峰仙とい・・・ 小川未明 「不死の薬」
・・・「それにしてもおやじとしてはずいぶん命がけの決心だったのだろうからね、電報の間違いぐらい偶然でないのかもしれないが、こんな間違いがあるとかえって長生きするもんだというからそうであってくれるといいがね、おふくろなんかの場合のように、鎌倉ま・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・「どうなるものかね、いなかにくすぼっているか、それとも死んだかも知れない、長生きをしそうもない男であった。」と法律の上田は、やはりもとのごとくきびしいことを言います。「かあいそうなことを言う、しかし実際あの男は、どことなく影が薄いよ・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・手さぐりで、そろそろ這って歩いて行くより他に仕方がない。長生きしたいと思っている。 そんな情態なので、私は諸君に語るべきもの、一つも持っていない。たったひとつ、芥子粒ほどのプライドがあると、さっき書いたが、あれもいまは消し去りたい気持ち・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・それから、ふっと、お母さん長生きするように、と思う。先生のモデルになっていると、へんに、つらい。くたくたに疲れた。 放課後は、お寺の娘さんのキン子さんと、こっそり、ハリウッドへ行って、髪をやってもらう。できあがったのを見ると、頼んだよう・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・「そうして、君がいちばん長生きをするだろう。いや、僕の予言はあたるよ。君、――」「なんだい」「ここに二百円だけある。ペリカンの画が売れたのだ。佐野次郎氏と遊びたくてせっせとこれだけこしらえたのだが」「僕におくれ」「いいと・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ 案外、長生きするのではないか。 こんな、ばかばなしをしていたのでは、きりがない。何かひとつ、実になる話でもしようかね。実になる、ならない、もへんなもので、むかし発電機の発明をして得々としていたところ、一貴婦人から、けれども博士・・・ 太宰治 「答案落第」
出典:青空文庫