・・・独り荷物をかついで魚臭い漁師町を通り抜け、教わった通り防波堤に沿うて二町ばかりの宿の裏門を、やっとくぐった時、朧の門脇に捨てた貝殻に、この山吹が乱れていた。翌朝見ると、山吹の垣の後ろは桑畑で、中に木蓮が二、三株美しく咲いていた。それも散って・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・それと、もう一つ、宅の門脇の長屋に住んでいた重兵衛さんの一家との交渉が自分の仮想的自叙伝中におけるかなり重要な位置を占めているようである。 重兵衛さんの家は維新前にはちゃんとした店をもった商人であったらしいが、自分の近づきになった頃はい・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・夕立や門脇殿の人だまり夕立や草葉をつかむむら雀 双林寺独吟千句夕立や筆も乾かず一千言 時鳥の句は芭蕉に多かれど、雄壮なるは時鳥声横ふや水の上 芭蕉の一句あるのみ。蕪村の句のうちには時鳥柩をつか・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫