・・・と呼ばれる日本劇場が経営困難で閉鎖されるということが新聞で報ぜられた。翌日この劇場前を通ったら、なるほど、すべての入り口が閉鎖され平生のにぎやかな粧飾が全部取り払われて、そうして中央の入り口の前に「場内改築並びに整理のために臨時休業」という・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・そうして庭園はついに閉鎖された。 また数日たって某大学の構内を通ったら壮麗な図書館の屋上に立ってただ一人玄関前の噴水池を見おろしている人がある。学生であるか巡視であるか遠いのでよくわからなかったが、少し変な気持ちがした。その後さらに数日・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・いかなる変化が余の眉目の間に現るるかを検査する役目を務める、御役目御苦労の至りだ、この二婆さんの呵責に逢てより以来、余が猜疑心はますます深くなり、余が継子根性は日に日に増長し、ついには明け放しの門戸を閉鎖して我黄色な顔をいよいよ黄色にするの・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・一九四六年、日本の民主化が良心的に課題とされたころ、軍国主義精神の日常化された姿であるとして、講道館は閉鎖された。こんにち講道館は大々的に復活し、プロ柔道とさえなっている。ジャーナリズムは、天皇もので企画の貧困をしのいだ。 ここに集めら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・自作農らはついに共同墓地の松の木を伐ってそれを出すことに決議したが、昭和二年の鉱山閉鎖以来共同植付苅入れをしている「やま連」と呼ばれる農村の集団的な労働者がそれをきっかけに、未組織のK部落における闘争に率先して立つことになった。そのオルグ的・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・彼女も研究所を閉鎖して早速同じ行動に移るべきであろうか。 事態の悲痛さをキュリー夫人は非常に現実的に洞察した。科学者としての独創性が彼女の精神に燃えたった。マリアはフランスの衛生施設の組織を調べて、一つの致命的と思われる欠陥を見出した。・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ところが、僅か二年ばかりで一時的なその寛大な方法は急に反対の方向に働き出し、一八四九年からケーニヒスベルクの町だけでも何百回となく集会が禁止され、教会や学校が閉鎖され、国外へ追放される人たちが生じた。 自由宗教の牧師であったユリウス・ル・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ 資本主義経済の行きづまりは、工場閉鎖・首きり・賃下げ・三百余万の失業と農村恐慌とでプロレタリア・農民の生活をせっぱつまったところまで追い込んでいる。 せつない暮しの中にあって一層せつないのはプロレタリア・農民の婦人大衆だ。 工・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・各作家団体の事務所はもとのままだが、地下室は閉鎖された。 食堂の入口二箇所に小机を前においた女がいる。一人の方に、自分の所属団体の名と姓名を記入して貰う。次の小机で、作家たちは食券を買う。記入額は五留だ。だが、二留半払えばいい。半額なの・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・ これは北九州の或る坑山で実際にあった話であるが、或る坑山が所謂事業不振で閉鎖されることになった。会社の方では儲がうすくなったから、これ以上損をすまいと勝手に閉めるのだが、その日から女房子供を抱えて路頭に迷わなければならない数百人の労働・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
出典:青空文庫