・・・ふと気が着いて見ると、箪笥を入た押込の襖が開けっ放して、例の秘密の抽斗が半分開いていた。自分は飛び起った。「誰が開けたのだ」と叫けんで抽斗に手をかけた。「私が開けました」と妻の沈着き払った答。「何故開けた、どうして開けた」「・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・―― 暑苦しいために明けっ放した表から、誰かが呼んだ。 吉田はハッとした。 彼は、本能的に息を詰めた。そして耳を兎のようにおっ立てた。「どなた?」 おふくろが、喘ぐように云ったのと、吉田が、「しっ」と押し殺すような声・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・は少し位無理をしたって開けっ放して客があったらすっかり裡が見える様にしたまんま書物をして居た。 ギッシリと書籍をつめて趣のある飾り方をして居る千世子の部屋を「誰かに見せてやりたい」などとも自分で思って居る千世子は出来る事なら肇にこれを見・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・ 極く明けっ放しな、こだわりのない生活をして居られる私共は、はたのしねくねした暮し振りを人一倍不快に感じるので、どうしても裏の家を快活ないい気持なと思う事が出来なかった。 何より彼より、一番大まかで、寛容でなければならない筈の主人が・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・階下の戸を開けっ放した室で年とった四角の体の男が時々来て残務整理をやった。 ――御承知のような現状で坑夫組合はこの学校で三十人前後教育するために年三四千ポンドを負担するに堪えなくなったのです。昨今の形勢では折角それらの人々を教育してもか・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫