・・・農場は父のものだが、開墾は全部矢部という土木業者に請負わしてあるので、早田はいわば矢部の手で入れた監督に当たるのだ。そして今年になって、農場がようやく成墾したので、明日は矢部もこの農場に出向いて来て、すっかり精算をしようというわけになってい・・・ 有島武郎 「親子」
・・・今日になってみると、開墾しうべきところはたいてい開墾されて、立派に生産に役立つ土地になっていますが、開墾当初のことを考えると、一時代時代が隔たっているような感じがします。ここから見渡すことのできる一面の土地は、丈け高い熊笹と雑草の生い茂った・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ ××というのは、思い出せなかったが、覇気に富んだ開墾家で知られているある宗門の僧侶――そんな見当だった。また○○の木というのは、気根を出す榕樹に連想を持っていた。それにしてもどうしてあんな夢を見たんだろう。しかし催情的な感じはなかった・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・尤も僕と最初から理想を一にしている友人、今は矢張僕と同じ会社へ出ているがね、それと二人で開墾事業に取掛ったのだ、そら、竹内君知っておるだろう梶原信太郎のことサ……」「ウン梶原君が!? あれが矢張馬鈴薯だったのか、今じゃア豚のように肥って・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・それに、こうかえられては、荒らした畠を、また作れるように開墾するんがたいへんじゃ。」 線路を、どうしてわざと曲りくねらすのか、それが変だった。直線が一番いゝ筈じゃないか。一寸、そんな気がした、すると、誰れかゞ、「今度ア、伊三郎の田を・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・その光で一度目標を認めた後には、ただそれがだれにでも認め得られるような論理的あるいは実験的の径路を開墾するまでである。もっとも中には直感的に認めた結果が誤謬である場合もしばしばあるが、とにかくこれらの場合における科学者の心の作用は芸術家が神・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・外国商売の事あり、内国物産の事あり、開墾の事あり、運送の事あり、大なるは豪商の会社より、小なるは人力車挽の仲間にいたるまで、おのおのその政を施行して自家の政体を尊奉せざる者なし。かえりみて学者の領分を見れば、学校教授の事あり、読書著述の事あ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・我々の故郷に革命の詩をもたらすための開墾を」と、プロレタリア作家の農村における闘争的活動が開始される。 読者はこの作家の実行運動において最も拙劣な、機械的なオルグを見るのである。強制献金のための村の衆の集りに出て、アジ・プロしようという・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・「開墾仲間寅公」 猪狩満直 私は北海道へ行ったことがあるので、作者が荒々しい開墾地をかこむ自然の雄大さなどを描こうとしている心もちがよく分って読んだ。然し、寅公が六年も辛棒した揚句に、折角辛苦した土地をすてて故郷へかえらねばならな・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・ この方面ばかりでなく、宿屋が並んだ表通りを一寸裏へ入ると、どこでも北海道の開墾地へ行ったような有様なのであった。 彼等は、元湯共同浴場と立札のあるところへつき当った。道が二筋にそこで岐れている。「どっち?」 眺め廻し、なほ・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫