・・・旧の盆過ぎで、苧殻がまだ沢山あるのを、へし折って、まあ、戸を開放しのまま、敷居際、燃しつけて焼くんだもの、呆れました。(門火なんのと、呑気なもので、(酒だと燗だが、こいつは死人焼……がつがつ私が食べるうちに、若い女が、一人、炉端で、うむと胸・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ それだからこうやって、夜夜中開放しの門も閉めておく、分ったかい。家へ帰るならさっさと帰らっせえよ、俺にかけかまいはちっともねえ。じゃあ、俺は出懸けるぜ、手足を伸して、思うさま考えな。」 と返事は強いないので、七兵衛はずいと立って、・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・六畳に三畳、二階が六畳という浅間ですから、開放しで皆見えますが、近所が近所だから、そんな事は平気なものです。――色気も娑婆気も沢山な奴等が、たかが暑いくらいで、そんな状をするのではありません。実はまるで衣類がない。――これが寒中だと、とうの・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 小県は窓を開放って、立続けて巻莨を吹かした。 しかし、硝子を飛び、風に捲いて、うしろざまに、緑林に靡く煙は、我が単衣の紺のかすりになって散らずして、かえって一抹の赤気を孕んで、異類異形に乱れたのである。「きみ、きみ、まだなかな・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ これを思う時、婦人開放も、婦人参政も、すべての運動は独り女子のみに限ったことでないことを知るであろう。 婦人が、男子に対立して、反抗した時代もやがて去ろうとしている。そして、新理想に輝く、社会建設の道へ、強い、真理と正義心との握手・・・ 小川未明 「婦人の過去と将来の予期」
・・・それからかれこれ二月ばかり経つと、今度は生垣を三尺ばかり開放さしてくれろ、そうすれば一々御門へ迂廻らんでも済むからと頼みに来た。これには大庭家でも大分苦情があった、殊にお徳は盗棒の入口を造えるようなものだと主張した。が、しかし主人真蔵の平常・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・平生はふつうの人のはいれない、離宮や御えんや、宮内省の一部なども開放されたので、人々はそれらの中へもおしおしになってにげこみました。 にげるについて一ばんじゃまになったのは、いろんなものをはこびかけている、車や馬車や自動車です。多くのと・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・の先頭に立つものではない、強い性格者であり認識の促進者たるべき人の多面性は語学知識の広い事ではなくて、むしろそんなものの記憶のために偏頗に頭脳を使わないで、頭の中を開放しておく事にある、と云っている。「人間は『鋭敏に反応する』ように教育・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・草原の真唯中に、何一つ被蔽物もなく全く無限の大空に向って開放された巣の中には可愛い卵子が五つ、その卵形の大きい方の頂点を上向けて頭を並べている。その上端の方が著しく濃い褐色に染まっている。その色が濃くなるとじきに孵化するのだとキャディがいう・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ 玉突きをするのにキュー尻のほうを持つ手の手首を強直しないよう自由に開放することが必要条件である。手首が硬直凝固の状態になっていてはキューのまっすぐなピストン的運動が困難であるのみならず、種々の突き方に必要なキューの速度加速度の時間的経・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
出典:青空文庫