・・・常住坐臥国家の事以外を考えてならないという人はあるかも知れないが、そう間断なく一つ事を考えている人は事実あり得ない。豆腐屋が豆腐を売ってあるくのは、けっして国家のために売って歩くのではない。根本的の主意は自分の衣食の料を得るためである。しか・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
発電所の掘鑿は進んだ。今はもう水面下五十尺に及んだ。 三台のポムプは、昼夜間断なくモーターを焼く程働き続けていた。 掘鑿の坑夫は、今や昼夜兼行であった。 午前五時、午前九時、正午十二時、午後三時、午後六時には取・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・昨夜も大勢来て居った友人(碧梧桐、鼠骨、左千夫、秀真、節は帰ってしもうて余らの眠りに就たのは一時頃であったが、今朝起きて見ると、足の動かぬ事は前日と同しであるが、昨夜に限って殆ど間断なく熟睡を得たためであるか、精神は非常に安穏であった。顔は・・・ 正岡子規 「九月十四日の朝」
・・・背中から左の横腹や腰にかけて、あそこやここで更る更る痛んで来る事は地獄で鬼の責めを受けるように、二六時中少しの間断もない。さなくても骨ばかりの痩せた身体に終始痛みが加わるので、僅かの身動きさえならず、苦しいの苦しくないのと、そんなことをいう・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・五日に一遍休暇日をとって、二交代の工場は三交代に、「間断なき週間」として働こうではないか。「間断なき週間制」は一九二九年の秋から実施された。 暦を組みなおして、各職場にわり当てられた五ヵ年計画第一年第一期の生産経済計画完成に着手したが、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ かかるが故に、行動主義は間断なき前への飛躍の意味に於いて、あらゆるモダアニズムとモラルを同じくする。ヒューマニズムのモラルの上に立つ行動主義は、必然、個人主義である。しかしこの個人主義はエゴ中心的な満足した自我のブルジョワ個・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・野上さんなどにしても、もっと仕事のお出来になる筈の方なのに、やはり子供の世話や、家庭のことに、半ばはとられて、ただ、仕事の方により力の重心の傾く場合と、家事の方に傾く場合とは、間断なくあるでしょうが、どうしても力の入れ方がちがってくるのだと・・・ 宮本百合子 「十年の思い出」
・・・ 働くのに五日週間制で、順ぐり「間断なき週間」でやるのに、休みのときの楽しみを与えてくれる文化活動だけが夏休みしちまうのは変だ。芝居も、役者は順ぐり休むがいいが、小屋はズッと開けろという意見が出ているわけだ。 アーク燈に美しく照らさ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・ 寧国寺さんはほとんど無間断に微笑を湛えている、痩せた顔を主人の方に向けて、こんな話をし出した。「実は今朝托鉢に出ますと、竪町の小さい古本屋に、大智度論の立派な本が一山積み畳ねてあるのが、目に留まったのですな。どうもこんな本が端本に・・・ 森鴎外 「独身」
・・・れは鵜飼の舟が矢のように下ってくる篝火の下で、演じられた光景を見たときも感じたことだが、一人のものが十二羽の鵜の首を縛った綱を握り、水流の波紋と闘いつつ、それぞれに競い合う本能的な力の乱れを捌き下る、間断のない注意力で鮎を漁る熟練のさ中で、・・・ 横光利一 「鵜飼」
出典:青空文庫