・・・第四階級をいうならば、ブルジョアジーとの私生児でない第四階級に重心をおいて考えなければ間違うと僕は考えるものだ。そして在来の社会主義的思想は、私生児的第四階級とおもに交渉を持つもので、純粋の第四階級にとっては、あるいは邪魔になる者ではないか・・・ 有島武郎 「片信」
・・・「でまた余計なことを云うようですがな、その為めに私の方では如何なる御処分を受けても差支えないという証書も取ってあるのですからな、今度間違うと、直ぐにも処分しますから」 三百は念を押して帰って去った。彼は昼頃までそちこち歩き廻って帰っ・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・「宇平ドンにゃ、今、宇一がそこの小屋へ来とるが、よその豚と間違うせに放すまい、云いよるが……。」と、親爺は云った。 健二は老いて萎びた父の方を見た。残飯桶が重そうだった。「宇一は、だいぶ方々へ放さんように云うてまわりよるらしい。・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・夫の明けた音は細君の耳には必ず夫の明けた音と聞えて、百に一つも間違うことは無い。それが今日は、夫の明けた音とは聞えず、ハテ誰が来たかというように聞えた。今その格子戸を明けるにつけて、細君はまた今更に物を思いながら外へ出た。まだ暮れたばかりの・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」と云った。 自分はこの時始めて彫刻とはそんなものかと思い出した。はたしてそうなら誰にでもできる事だと思い出した。それで急に自分も仁王が彫ってみたくなったから見物をやめ・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
植物学の上より見たるくだものでもなく、産物学の上より見たるくだものでもなく、ただ病牀で食うて見たくだものの味のよしあしをいうのである。間違うておる処は病人の舌の荒れておる故と見てくれたまえ。○くだものの字義 くだもの、という・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・けれども、自分が死ぬべきときがくれば、その同じ力は、自分を間違うこともなく、取りのけにもせずに死なせるだろう、自分がどんなに惨めらしい敗亡に陥っても、その同じ力は静かに、また次の来るものを迎えるほど、それほど、大きく、広いものであるらしいこ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・「そちが話を聞けば、甚五郎の申し分や所行も一応道理らしく聞こえるが、所詮は間違うておるぞよ。しかしそちも言うとおり、弱年の者じゃから、何かひとかどの奉公をいたしたら、それをしおに助命いたしてつかわそう」「はっ」と言って源太夫はしばらく畳・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫