・・・ ロンドンのローヤル・ソサエティー・オヴ・ブリティッシュ・アカデミーから、父の閲歴について問い合わせが来て、それに答える下書を国男が書き二階の私のところへ持って来た。父の生れた年は明治元年でペシコフと同年でした。只一八六八でいいか、A・・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 室生犀星氏が近衛公や一部の顕官に逢い、一夕文学談を交したことで、軍人、官吏も文学を理解しようとする誠意を持っていると感激し、庶民出生の長い艱難多かった自身の閲歴をも忘却して、忻然として「行動の文学」を提唱し、勇躍して満州へ行く悲喜劇的・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・人的生涯の悲惨として現れるかということを一般人生の姿として冷たく、傍観的に観察している態度等は、この作者がロマンチストとしての抒情性と社会に対する自然主義的立場とを作家的稟質、社会所属の本質、過去の全閲歴の蓄積として一身に具現している興味あ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ロマンティックな傾向に立って文学的歩み出しをしていた藤森成吉、秋田雨雀、小川未明等の若い作家たちは、新たに起ったこの文学的潮流に身を投じ、従来の作家の生い立ちとは全くちがった生活の閲歴を持った前田河広一郎、中西伊之助、宮地嘉六等の作家たちと・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・しかし個々の意識人の人生において、経験は蓄積されなければならず、批判・発展が継続してされなければならず、その結果としての閲歴がもたれなければならない。社会の歴史にも同じことが必要である。感性的にだけ生きた人にとって生存はあったが、生活と人生・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・に対して自身の多年の閲歴を語るのであれば、それは、「見習女中」の科学性の欠如をくまなく明らかにし、自身の文学的活動のより高いレーニン的段階の獲保によってプロレタリア文学を押しすすめることにおいてこそなされるべきではなかったか。「一連の非・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・本当に、文学における才能や作家としての閲歴のある村山、藤森、中野、貴司その他の人々が自他ともに大きい〔十三字伏字〕経験の中から、どうして人の心を深くうち、歴史というものをまざまざ髣髴せしめるような制作をしないのであろうか。 先頃立野信之・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・ だが、この祖母は、自分の辛酸な閲歴の中から慾心のない親切と人間の生活の智慧に対する信頼とを見つけ出して来た稀有な心の持主であった。ロシアの古い民謡を実にどっさり知っていてそれを上手に唄い、祖父のいない晩の台所での団欒がはじまると、ふだ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・彼は永い革命活動の閲歴と正当な社会に対する理解によって、もちろんこの革命がロシア人民のための「自由への道」であろうことを見抜いた。当時彼が主宰していた『新生活』の紙上では、ボルシェヴィキの政策について正しい理解をひろめるため、またレーニンに・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・をしてやっと食いつなぎながらも、猶創作の勉強を続けているという、文学のために思いきわまった一人の女の閲歴が書かれているのである。 どんなことをしても書くことだけは捨てまいとする作者の一念こった心持が理解されるために、私には一層この率直に・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
出典:青空文庫