・・・この故に観音経を誦するもあえて箇中の真意を闡明しようというようなことは、いまだかつて考え企てたことがない。否な僕はかくのごとき妙法に向って、かくのごとく考えかくのごとく企つべきものでないと信じている。僕はただかの自ら敬虔の情を禁じあたわざる・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・科学と哲学と宗教とはこれを研究し闡明し、そして安心立命の地をその上に置こうと悶いている、僕も大哲学者になりたい、ダルウィン跣足というほどの大科学者になりたい。もしくは大宗教家になりたい。しかし僕の願というのはこれでもない。もし僕の願が叶わな・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ それがためには、プロレタリアートは、その戦争が何のためになされているかを闡明しなければならない。 反戦文学は、こゝに於て、戦争が何のために行われるか、その真相を曝露し、その真実を民衆に伝え、民衆をして奮起させるべきである。泥棒ども・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・しかしまた、普通にいわゆる常識的にわかりきったと思われることで、そうして、普通の意味でいわゆるあたまの悪い人にでも容易にわかったと思われるような尋常茶飯事の中に、何かしら不可解な疑点を認めそうしてその闡明に苦吟するということが、単なる科学教・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・ダイナモができてからそれが発電する理由が証明されたり、飛行機が飛んでから、それが飛べる必然性が闡明されたりする。大地震が襲来して数万の生霊が消散した後にその地震が当然来るはずであった事が論ぜられたりするのは事実である。 しかし必ずしもそ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・かくのごとき電子の性質が次第に闡明され、これが原子を構成する模様が明らかになる時が来ても、電子その物は何物ぞという疑問は残るのである。 一体電子を借りなければ説明の出来ないような諸現象がまだ発見されず、物質の最小部分が原子だとして充分で・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・その原因は、個性と文学の発展の可能の源泉として、日本の民主主義文学の伝統が、積年の苦難を通してたえず闡明してきた文学における客観的な社会性の意義を、会得していなかったからである。文学において謙虚にまた強固に自己を大衆のなかなるものとして拡大・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・えば、著者自身にふれている重要な事実――現代の一部の作家が心の内部へ内部へと掘り下げてゆく過程の叙述をのみ書きたがっているという現象について、それがいかなる心理的理由によるものか、それを科学的実験的に闡明してはいけないのだろうか。「ユリ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・バルザックの矛盾を闡明し得ぬ同時代的矛盾を自身のうちにもっている。ブランデスは品がいい天質のひとですね、私はやはり同じ作家の研究について、そういう感じをうけました。そして、ところどころで思わずにやついた。ブランデスはあんなに鋭く背景となった・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・民衆一般が手近に分りやすく知り得ない諸事情の錯綜の結果、或は率直に闡明され得るなら分明となるはずのところをそれが出来ない事情があるため、一層ものごとが複雑になっているというような、二重の複雑が平凡な民衆の生活の思いよらぬ心持の隅にまで影響し・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
出典:青空文庫