・・・飛天の銃は、あの、清く美しい白鷺を狙うらしく想わるるとともに、激毒を啣んだ霊鳥は、渠等に対していかなる防禦をするであろう、神話のごとき戦は、今日の中にも開かるるであろう。明神の晴れたる森は、たちまち黒雲に蔽わるるであろうも知れない。 銑・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ようやく埒外に出れば、それからは流れに従って行くのであるが、先の日に石や土俵を積んで防禦した、その石や土俵が道中に散乱してあるから、水中に牛も躓く人も躓く。 わが財産が牛であっても、この困難は容易なものでないにと思うと、臨時に頼まれてし・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・大石軍曹はて云うたら、僕がやられたところよりも遙かさきの大きな岩の上に剣さきを以て敵陣を指したまま高須聨隊長が倒れとった、その岩よりもそッとさきに進んだところで、敵の第一防禦の塹壕内に死んどったんが、大石軍曹と同じ名の軍曹であったそうや。」・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・ 沼南の清貧咄は強ち貧乏を衒うためでもまた借金を申込まれる防禦線を張るためでもなかったが、場合に由ると聴者に悪感を抱かせた。その頃毎日新聞社に籍を置いたG・Yという男が或る時、来て話した。「僕は社の会計から煙草銭ぐらい融通する事はあるが・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・水軍の策戦は『三国志』の赤壁をソックリそのままに踏襲したので、里見の天海たる丶大や防禦使の大角まで引っ張り出して幕下でも勤まる端役を振り当てた下ごしらえは大掛りだが、肝腎の合戦は音音が仁田山晋六の船を燔いたのが一番壮烈で、数千の兵船を焼いた・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
一、反戦文学の階級性 一 戦争には、いろ/\な種類がある。侵略的征服的戦争がある。防禦戦がある。又、民族解放戦争、革命も、そこにはある。 戦争反対の文学は、かなり昔から存在して居るが、ブル・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・そして、諸々の作品に見られる愛国的乃至は軍国的意識性は、日清戦争の××××××××して解放戦争、防禦戦争としようとした従来の俗説に対して、一つの反証を、ブルジョアジー自身によって動員された文学そのものが皮肉にも提供している。 日清戦争後・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・わが身と立場とを守る笑いだ。防禦の笑いだ。敵の鋭鋒を避ける笑いだ。つまり、ごまかしの笑いである。 そうして、私の寝ながらの空想は、次のような展開をはじめたのである。 彼はあの街頭の討論を終えて、ほっとして汗を拭き、それから急に不機嫌・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・敵は遼陽の手前で、一防禦やるらしい。今日の六時から始まったという噂だ!」 一種の遠いかすかなるとどろき、仔細に聞けばなるほど砲声だ。例の厭な音が頭上を飛ぶのだ。歩兵隊がその間を縫って進撃するのだ。血汐が流れるのだ。こう思った渠は一種の恐・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・虎のほうでも徐々に胴のまわりに巻きつくのを、どう防御していいか見当がつかないので困るらしい。だんだんに締めつけられて、虎は息苦しそうにはあはあとあえぐのであるが、それでも少しもうろたえたような、弱ったような様子の見えないのはさすがにえらい。・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
出典:青空文庫