・・・それで、ただ一台だけが防禦の網をくぐって市の上空をかけ廻ったとする。千箇の焼夷弾の中で路面や広場に落ちたり河に落ちたりして無効になるものが仮りに半分だとすると五百箇所に火災が起る。これは勿論水をかけても消されない火である。そこでもし十台飛ん・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・それで、ただ一台だけが防御の網をくぐって市の上空をかけ回ったとする。千個の焼夷弾の中で路面や広場に落ちたり川に落ちたりして無効になるものがかりに半分だとすると五百か所に火災が起こる。これはもちろん水をかけても消されない火である。そこでもし十・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・何よりも困難なことには、内地のような木造家屋は地震には比較的安全だが台湾ではすぐに名物の白蟻に食べられてしまうので、その心配がなくて、しかも熱風防御に最適でその上に金のかからぬといういわゆる土角造りが、生活程度のきわめて低い土民に重宝がられ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・敵の飛行機から毒瓦斯の襲撃を受けたときの防禦演習をしているのだという。サイレンが鳴ると思ったら眼が覚めた。汽車はもう仙台へ着いていた。 帰宅してみると猫が片頬に饅頭大な腫物をこしらえてすこぶる滑稽な顔をして出迎えた。夏中ぽつりぽつり咲い・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 以上は新春の屠蘇機嫌からいささか脱線したような気味ではあるが、昨年中頻発した天災を想うにつけても、改まる年の初めの今日の日に向後百年の将来のため災害防禦に関する一学究の痴人の夢のような無理な望みを腹一杯に述べてみるのも無用ではないであ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・ それで、文明が進むほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防御策を講じなければならないはずであるのに、それがいっこうにできていないのはどういうわけであるか。そのおもなる原因は、・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・怒る代りに研究をして防禦法を講じる外はないであろう。 虫の口から何か特殊な液体でもだして鉛を化学的に侵蝕するのかと思ったが、そうでなくて、やはり本当に「かじる」のだそうである。その証拠にはその虫の糞がやはり「鉛の糞」だという。なるほど顕・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・ 亮のような柔らかい心臓と彼のような透明な脳とを同時にもって生まれるという事は、現世にあっては不幸な事かもしれない。防御のない急所を矢弾の雨にさらすようなものかもしれない。その上にまた亮は弱い健康には背負いきれない「生」の望みを背負って・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・偕老を契約したる妻が之を争うは正当防禦にこそあれ。或は誤て争う可らざるを争うこともあらん。之を称して悋気深しと言うか。尚お是れにても直に離縁の理由とするに足らず。第五癩病の如き悪疾あれば去ると言う。無稽の甚しきものなり。癩病は伝染性にして神・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・既にこの弱点あれば常にこれを防禦するの工風なかるべからず。その策如何というに、朝夕主人の言行を厳重正格にして、家人を視ること他人の如くし、妻妾児孫をして己れに事うること奴隷の主君におけるが如くならしめ、あたかも一家の至尊には近づくべからず、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫